大卒でも無職?インドで進む「高学歴化失業社会」、深刻な学歴インフレの実態 「貧しい若者まだ増える」研究者が断言する理由

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学費が安く、安定した仕事に就ける確率が高い政府系の職業訓練校や、名門校を出たかどうかではなく「大卒」という資格で挑戦できる公務員などの倍率は非常に高く、それを勝ち抜いて成功をつかむことを、現地の若者は「宝くじに当たるぐらいのこと」だと考えているらしい。佐々木氏も自身の研究を振り返って言葉を探す。

「一発逆転を狙う若者の間では、外国人観光客と仲良くなることで資金援助を受けたり結婚したりという方法が話題になることさえあります。追跡調査を始めて約20年が経ちますが、高学歴者の就職について、まだ光は見えないというのが正直なところです」

貧しい高学歴者はまだ増えるが若者は「絶望していないよう」

このような苦境にあえぐ若者の数はまだまだ増える、と佐々木氏は続ける。インドの人口は都市部よりも農村部に多く分布している。ワーラーナシーなどの都市で起こった教育ブームや学歴インフレが今後、人口の多い農村部へと、さらに波及していくと考えられるからだ。問題の裾野はより広がるが、それによって希望が持てることもあると言う。

「近年は『高学歴化失業』という問題が、以前より注目されるようになってきました。インドは日本と違って若者の人口比率が高いので、政府は彼らの声を無視するわけにはいきません。困っている若者が増えた分、政府も問題解決の本気度を上げないといけないということです」

約20年の研究の中で、佐々木氏が不思議に感じていることがある。

「インドの若者は、分断された不確実な社会にいながら、あまり絶望しているようには見えませんでした。インタビューをすると、努力が報われないことや、そもそも努力さえさせてもらえない状況に怒ったり泣いたりする若者に出会うことはあります。でも例えばラフール君は、ずっと就職活動を続けていたし、近年は土地を売って新たなビジネスを考えたいとも話していました。カーストによって格差に慣れていることもあるかもしれませんが、自分で自分の人生を選べない中でも希望を捨てずにいられるのはなぜなのか。これを次の研究テーマにしようと考えているところです」

米国などで華々しく活躍するインド系人材について、その成功の要因を「英語力や数学の力」「人口の多い国で競争を勝ち抜いた力」などに求めることがある。だがそれは、富裕層でなければまだまだ手に入れにくいもののようだ。そうした強者の視点で語られるインドのパワーよりも、ラフール君のように、不確実な環境でも絶望しないマインドがあるなら、それこそが今の日本人が知りたいところではないだろうか。佐々木氏の新たな研究の成果が待たれる。

(文:鈴木絢子、写真:佐々木氏提供)

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