大卒でも無職?インドで進む「高学歴化失業社会」、深刻な学歴インフレの実態 「貧しい若者まだ増える」研究者が断言する理由
佐々木氏が15年12月から、半年程度のスパンで取材を続けてきたラフール君というワーラーナシーの青年がいる。彼は「高学歴者」ではあるが、卒業したのは、入試もなく学費も安価な新興の私立文系校だった。高学歴者の増加によって「学歴インフレ」が起きている現在のインドでは、高等教育を受けても、それが名門校でなければあまり価値がない。
「ラフール君は卒業後もずっと、マーラー(花輪)を作ってバザールで売る家業の手伝いをしていました。公務員試験やインド国有銀行、国鉄職員などの就職試験を受け続けましたが採用にはならず、転職がかなわないまま、20年の春に結婚が決まったと聞きました」
公務員に採用されるのは「宝くじに当たるぐらい」高倍率?
ラフール君は資格取得のための学費が払えず諦めたが、一時は教職員になることも考えた。望む仕事に就けなかった高学歴者が、自分が学んだような小規模の学校の講師になるケースも多いという。変化する教育ビジネスそれ自体が、無職の高学歴者の受け皿にもなっていたのだ。学校の生存競争も激しく、独立した学校としてオープンしたが、数年後には名門大学を目指すための予備校になっていたなどの例もあるという。
「新興の学校としてはあまり学生を集められず、有名大の名前で募集したほうが儲かると経営者がジャッジしたのでしょう」
ブームを起こしたワーラーナシーのMBAバブルは00年代後半にはじけて、現在では同様の学校はほとんど残っていない。しかし教育ビジネス自体はさまざまに姿を変えながら、今も盛んに展開されているそうだ。

インドでは、どんな教育を受けることができたかで就ける仕事が厳格に分かれてしまう。さらに佐々木氏が繰り返し指摘するのは、安定した雇用自体が足りていないというインド社会のあり方だ。
「ホワイトカラーを目指してかなわなかった若者たちの多くは、インドの伝統的な仕事に就くことになります。これらは学歴のない人たちを支えてきた職業でもあるのですが、収入は低く、将来性もあまりないものがほとんどです」
伝統的な仕事とは例えば、パーンと呼ばれる嚙みたばこを作って屋台で売ったり、サリーに使われる糸の工場を経営したりするようなものを指す。ラフール君の家業のマーラー売りもその1つだ。
「インドだけでなく、中国など21世紀に入ってから著しく発展した国では、学歴と仕事の関係はどこも非常に似ています。若者の将来が不確実になるということが全世界で起きており、これは現在の日本も例外ではなくなってきていますよね」