自分で決める力を培う「デジタル・シティズンシップ」教育が探究力も伸ばす 働き方や指導員不足にも挑む吉川市の実践ICT

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吉川市教育委員会 ICT教育推進担当副主幹・松岡伸悟氏
(撮影:風間仁一郎)

広域・包括連携と多様な働き方が守る、もう一つの市民権

大西氏は吉川市のほかに、同じ埼玉県内の幸手市でも市教委のICT教育専門員を務めている。そうしたことから、吉川市と幸手市は互いの経験や教材を共有しながら、連携を取ってICT教育を進めている。大西氏はこのように、デジタル・シティズンシップ教育を「包括的」かつ「広域的」に行う必要性を説く。

「一部の市町村だけが熱心に取り組んでいても、全体の意識を変えることはできません。地域によって格差が生まれてしまうことも避けたいものです。企業と協働することも一案だとは思いますが、データや利益が得られない場合は協力してもらいにくい。吉川市では無料で使えるツールを教育委員会で独自に制作するなどしていますが、こうした成果をほかの自治体に公開し、どんどん活用してもらえたらと思っています」

毎月発行の教育通信(左)。市オリジナルの健康観察ツール。この9月から市内の2校の小学校で実証実験中(右)

また、広域的展開は、教育現場が抱える別の問題への対処法でもある。

「今、私は吉川市で週に2回勤務しながら、ほかの時間で幸手市や大学、他県での講演なども行っています。こうした形で人材を活用することができれば、地域にとっては情報共有の機会にもなり、教員にとっては多様な働き方の選択肢になります」

幸手市も吉川市も決して規模の大きな自治体ではなく、教員や指導員の数も限られている。教員のなり手不足なども取り沙汰される昨今、フレキシブルな環境で人材を育成し、効率的に動いてもらうことも重要な課題だ。松岡氏もこう語る。

「大西先生のおかげで吉川市のデジタル・シティズンシップは着実に進んでいますが、いずれは学校の担任が自分たちで考えて、直接子どもを指導できるようにすることが目標です。現在はそのための知見を蓄積している期間。毎日子どもたちと向き合っている教員だからこそ、ICT教育でできることもたくさんあると思います」

日本人にはピンとこない言葉かもしれないが、シティズンシップ=市民権には、「一人ひとりの権利や自由が保障され、尊重される」という意味がある。松岡氏の言う「学校の担任が自分たちで考えて、直接子どもに指導できる」こと、大西氏の言う「多様な働き方の選択肢」が示されること。これらは教員にとって大切な市民権といえるのではないだろうか。

人材育成や教員の働き方、スキルアップも含めて取り組む吉川市のデジタル・シティズンシップ教育においては、教員のシティズンシップも議論の範囲外ではないようだ。

(文:鈴木絢子、注釈のない写真:吉川市教育委員会提供)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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