スタートアップ政策には客観的視点と根拠が必要 関西学院大学経済学部教授・加藤雅俊氏に聞く

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PCデスクにて関西大学教授 加藤雅俊氏
加藤雅俊(かとう・まさとし)/関西学院大学経済学部教授。2008年一橋大学で博士号(商学)取得。一橋大学専任講師などを経て、18年から現職。近年はスタートアップに関する研究に従事している。(撮影:藪口雄也)
「スタートアップ」と聞いた際どんな企業を想起するかは、人によって違うかもしれない。だが本来は「創業間もない企業」(あるいは単に「創業」)を指す言葉だ。経済学ではこの定義の下、規模も業種も異なる多くのスタートアップのデータを基に、全体の傾向を分析する研究が盛んに行われているという。最新の知識を体系的に学べる本書には、教科書としては異例の注目が集まり、学生のみならずビジネスパーソンにも読まれている。
スタートアップの経済学 -- 新しい企業の誕生と成長プロセスを学ぶ (単行本)
『スタートアップの経済学 -- 新しい企業の誕生と成長プロセスを学ぶ (単行本)』(加藤雅俊 著/有斐閣/2860円/310ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──スタートアップの分析はビジネスモデル、資金調達、経営論など経営者や個別企業に着目したものが多いですが、本書のアプローチはそれらとは異なります。

個別の企業に着目する研究は、主に経営学で行われてきた。近年変わってきているところもあるので一概に言えないが、経営学と経済学の違いとして最も大きいのは、「スタートアップをどのような立場で見るか」だ。

経営(商)学部の授業では、起業に関する一連のプロセスを当事者であるアントレプレナー(起業家)の視点で見ていくことが多い。例えば、どうやって創業するか、起業して問題に直面した際の対応、資金調達の方法や注意点などハウツー的な要素を重視する。ただし注意が必要なのは、成功企業に注目するベストプラクティス研究から「どうすれば成功するか」はわからないという点。成功要因を明らかにするには、失敗企業と比較する必要がある。

一方、経済学では経済全体の中にスタートアップ企業を位置づけ、俯瞰するような立場を取る。企業間の「異質性」に着目して、全体の中でどのような個人が創業するのか、どんな企業が成長するのかといった問題に取り組む。ただし、成長というのはあくまで「結果」で、より強い関心を寄せるのは、その「原因」や結果が出るまでの「プロセス」だ。多くの企業を客観的に捉えて傾向を分析し、適切な介入を検討する。いわば政府に近い視点で、どんな支援が企業の成長を促すかについて考える。

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