クラウド化前提の「校務の情報化」に盲点、民間の教訓生かしSaaS化まで議論を 利便性とセキュリティーを両立させる具体論

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「IaaSやPaaSに従来型のパッケージソフトを乗せるだけでは、自治体ごとの開発でカスタマイズが発生して想定以上に費用がかかるうえ、運用管理も大変です。民間企業がクラウドを利用し始めた当初、IaaSの利用者からコストが下がらない、運用負荷が大きいなどの課題が発生しましたが、現在はSaaS、PaaSとの使い分けが進んでいます。民間におけるクラウド活用の教訓を自治体が生かさない手はありません。SaaSであればIDごとの課金でソフトの更新もベンダー業者が担うことになります。IT担当者が多くいる大きな自治体では運用が大変なPaaSでも対応できますが、小さな自治体ではとても対応できません。そのためにも、負担が軽いSaaSが適していると考えます」(中村氏)

SaaSには特定用途に限定したサービスも多く存在し、ユーザーが用途に応じたセキュリティーレベルをリクエストすれば、ベンダーがこれに見合った設計をして効果的な対策を取ることができる。さらに、脆弱性診断やセキュリティー対策の更新、場合によっては危機対応についてもベンダーに任せることが可能だ。これらのメリットを考え合わせると校務に特化した支援システムでは、SaaSの利用が最も望ましいという。

「IaaSでは主にユーザーがセキュリティー対策を実施しなければならず、PaaSではクラウド事業者とユーザーでセキュリティー対策が分割されます。SaaSでは主にクラウド事業者がセキュリティー対策を実施するため、ユーザーの負担が最も少ないのです」(中村氏)

しかし、学校や教育委員会においてSaaS型の校務支援システムを利用している自治体は少ない。MM総研が行った調査では全体の4%で、オンプレミス型などのパッケージのシステムを利用している自治体が66%だった。

国内では企業を中心にSaaSの利用拡大が進んでおり、全体としては将来的にオンプレミスから移行し、クラウドサービスが常態化する方向へ向かうといわれている。だが現状、校務支援システムの主要機能をSaaSで提供するメーカーは少ない。「メーカーは現状にとらわれず、将来の教員の働き方に資するクラウド活用モデルを提示すべき」と指摘する中村氏は、教育行政についても次のように進言する。

「教員の働き方改革を実現するためには、GIGAスクール構想で普及した汎用クラウドサービスだけでなく、SaaS化によって校務支援システム全体をクラウド化すべきです。そのほうがデータ連携や活用の利便性が高まることになります。また、セキュリティー対策については今後、ベンダーとユーザーの責任分担で、ベンダー側の負担が大きくなることが予想されます。その意味でも、ベンダー負担との兼ね合いでクラウド化の議論をするのではなく、その先のデータ活用のメリットとセキュリティーポリシーとを照らし合わせながら、教員の負担を減らしていく方向へ動くべきでしょう。そして、教員が積極的に校務支援システムを活用できるようにするためにも、クラウドに最適化された教員1人1台のPC確保とSaaS化の範囲について検討することが得策なのです」

専門家会議の議論は道半ばだが、クラウド化のみならず、SaaS化まで議論することが必要かもしれない。現在ある学校現場の課題を解決するのはもちろんだが、5年後10年後を見据えてどんな技術を使うのが最適なのか、じっくりと議論を進めてほしい。

(文:國貞文隆、編集部 細川めぐみ、注記のない写真:タカス / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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