ここまでのことをまとめると、①採用者数が増えている自治体、あるいはそれなりの数を確保しなければならない自治体で、②受験者がそう集まっていない場合、もしくは①、②のいずれかが大きい場合、低倍率になる。
低倍率は何に影響するか
加えて、ややこしい話だが、倍率がよそより高いからといって、安心できるわけではない。
例えば、高知県ではここ数年、小学校の倍率は高いものの、報道によると、辞退者もかなり出ている(高知新聞20年12月9日)。高知県は他地域よりも採用試験のスケジュールが早いため、とりあえず受けてみたい、内定を取っておきたいという人も多いのかもしれない。
また、低倍率だからといって、ただちに教員の質が低下しているとも言い切れない。机上論と言われそうだが、たとえ1.0倍だったとしても、教員に向いている、とても優秀な人ばかりが第1志望でエントリーしてくれているなら、問題は小さいからだ。もちろん、現実にはそういうケースはほぼないだろうが。
「低倍率=質が悪い」という科学的な知見、証拠もしっかりしたものがあるわけではない。とはいえ、傍証だが、採用担当者の実感として、あるいは新人を受け入れる学校現場の実感として、質が心配だといった声は少なくないし、優秀な人材が教員を目指しにくくなっているという声は多い(拙著『教師崩壊』に関連データを掲載)。
つまり、倍率が高くても低くても、安心できるとは限らず、採用プロセスに来ている人材がどうなのかをしっかり見ていく必要がある。また、採用後の学校内外での育成やサポートを充実させていく姿勢、施策も大切だ。学校は教育機関なのだし、採用時の倍率だけに気を取られるのではなく、採用後の育成と成長にも注目したい。
とはいえ、低倍率が確実にダメージを与えることがある。教員不足、講師不足への影響だ。
繰り返しになるが、採用試験に不採用だった人が講師登録をして、講師(臨時的任用教員等)を続けながら、採用試験に再チャレンジするというのが一般的だ。低倍率は不合格者も減っているということなので、講師登録者も減ることを意味する。
産育休や病気休職者、離職者が出た場合、代わりの講師が見つからないで教員不足、欠員状態にある学校は各地にある。これでは、ただでさえ多忙な学校現場がさらに疲弊してしまう。このことは、受験者の減少や講師登録の減少などにもつながるので、悪循環である。
ここでは、対策について詳述できないが、以上のような背景事情を踏まえて対策を考えていく必要があるし、倍率うんぬんで条件反射するのではなく、幅広い視点から考えていく必要がある。
(注記のない写真: Ushico / PIXTA)
執筆:教育研究家 妹尾昌俊
東洋経済education × ICT編集部
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