損失100億、シャインマスカット「中国流出」の痛恨 中国の栽培面積は日本の30倍、逆輸入の危機も
「晴王」という名称は中国でも商標登録されているため、中国産のものにつけて売れば違法行為となる。ところが、「何十もの農家が勝手に晴王の名前をつけて売っている。商標権侵害を争うことはできるが、1件あたり数十万円コストがかかり、いたちごっこでキリがない」(前出のJA全農おかやま担当者)。
見た目や銘柄で日本産と区別がつかなくとも、価格と品質には差がある。中国産のシャインマスカットは1パックあたり日本円で500円以下と安価なものもあり、日本産の価格の4分の1にも満たない。
品質も劣っているものが少なくない。ぶどう農家でシャインマスカットの栽培も手掛ける林ぶどう研究所の林慎悟氏はこう語る。「シャインマスカットは昼夜の寒暖差が激しい気候で栽培することで甘みを増す特徴がある。中国の冷涼な地域で栽培されたものは果皮が分厚くなり、糖度も日本産より低くなる傾向がある」。
こうした中国産のシャインマスカットは現地で販売されるにとどまらず、シンガポールやタイ、香港、台湾などにも出荷されている。同様に、韓国産もマレーシアやベトナムなどで出回っている。
さらには、日本に「逆輸入」されかけた例もある。2021年、東京税関まで持ち込まれたものに対して開発者の農研機構が輸入差し止め申請を行い、どうにか未然に防ぐことができた。
安くて品質に劣る海外産のシャインマスカットが海外で広く出回れば、日本からの輸出品と競合するばかりか、ブランド価値そのものを毀損することになりかねない。ここまでの野放図になってしまったのにはいかなる背景があるのだろうか。
2007年ごろから複数ルートで流出
シャインマスカットが中国で栽培され、販売されているという情報を農研機構が入手したのは2016年のこと。
すぐに現地に職員を派遣して調査をしたところ、外観などからほぼ間違いなくシャインマスカットが栽培されているとわかった。「2007年ごろから、複数のルートで中国に持ち込まれたようだ」(農研機構)。
もっとも、中国への流出ルートすべてが違法であったとは限らない。
複数の関係者が流出ルートの1つと見ているのが、農家が自家栽培したシャインマスカットの苗を日本人のブローカーが購入して中国人に販売した、というケースだ。これは、植物の知的財産の保護などを取り決める種苗法のもとで違法行為となる。
一方、「ホームセンターなどで販売されていた苗木が海外に持ち出された例が多かったようだ」(農水省輸出・国際局知的財産課)との見方もある。正規に販売されたものであれば、当時は無断で海外に持ち出しても違法ではなかった。
また、海外へ持ち出されたあとに増殖、栽培されるのを防ぐ対策も不十分だったといわざるをえない。ポイントは、現地で品種登録をしていたか否かだ。
品種登録をすれば、無断栽培などの権利侵害に対して、開発者が栽培を差し止めさせたり、損害賠償請求をしたりできるほか、刑事罰の対象にすることもできる。この権利は、品種登録から最長で25年間保護される。
シャインマスカットの場合、開発した農研機構は2006年に国内で品種登録をしているため、国内の農家や企業が農研機構に無断で栽培すれば違法だ。ところが、中国や韓国など海外での品種登録は行っていなかった。つまり、現地で無断に栽培する農家を発見しても、それをやめさせる権限がなかったのだ。
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