理想論で終わらせない「インクルーシブ教育の実践」が可能なこれだけの理由 すべての子が多様性を知り学べる機会の実現へ

✎ 1〜 ✎ 7 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 最新
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
米国ほどではないものの、ここ日本でも社会の分断が深刻になっている。所得や学歴、世代、地域など、さまざまなところで分断と対立が深まる中、ヒロック初等部の校長・蓑手章吾氏は「学齢期という猶予期間の中でこそ、すべての子が多様性について学ぶべき」と話す。それが誰もが安心して暮らせる社会の基盤になるというが、インクルーシブ教育はその手立てとして有効だと指摘する。

インクルーシブ教育とは

インクルーシブ教育と聞くと、「障害のある子が一緒に学べるようにするってことでしょ?」と思われがちです。これが間違いというわけではありませんが、この定義はインクルーシブ教育の一部分であり、目的を言い当てたものではありません。

「障害」が指すものによっても変わりますが、今日の日本のほぼすべての学級には、多かれ少なかれ学習に困り感を抱えている子が在籍しています。体の弱い子、日本語が苦手な子、発達が早くて授業が退屈な子、気の合う友達がいない子、家のことを自分でしなければならない環境の子……。すべての子たちを想定すると、もはや「障害」という定義ではくくりきれないかもしれません。インクルーシブ教育の目的は、このような子たちを含む「すべての子が、自分の学びたい環境で学べる」ことです。

こういう話をすると「そんなのは無理だ、理想論だ!」と反論されることがあります。本当にそうでしょうか。もしその形を「理想」と感じられたのであれば、それこそすぐに諦めるべきではないと思います。理想に向けて考え続ける姿勢が、教育に限らず、どの分野においても必要ではないでしょうか。そしてその方法は今日、「誰かが我慢したうえで成り立つ」という根性論ではなく、最新のテクノロジーとちょっとした工夫で、すでに実現可能なのです。

困難を抱える子を教室から排除することの弊害

私は6年間普通小学校(この呼び方は好きではないですが……)で担任をした後、特別支援学校に異動しました。特別支援学級でもカバーが難しいような重度の知的障害児を対象とした学校でしたが、中にいる子は実に多様です。

ダウン症と呼ばれる、気持ちの切り替えに困難を抱えることの多い子もいれば、自閉症のようにコミュニケーションに困難のある子もいます。歩行困難な子も、耳が聞こえない子も、てんかんなどの病気でケアの必要な子も多くいました。これらの子たちが、「同じ年度に生まれたから」という理由で、同じ教室で学んでいるのが特別支援学校の現状です。認知力に関しても、発達年齢で3~4歳という開きがあります。通常学級よりも幅のある子たちを、同じ教室で教え育てる。そんな環境が、そこには当たり前に実在していました。

蓑手章吾(みのて・しょうご)
HILLOCK(ヒロック)初等部 校長
公立小学校で14年勤務した後、2021年3月に東京・世田谷にオルタナティブスクール、ヒロック初等部を創設、22年4月に開校。専門教科は国語。特別支援学校でのインクルーシブ教育や発達の系統性、学習心理学に関心を持ち、教鞭を執る傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士号を取得。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京・小金井の前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任するなどICTを活用した教育にも高い関心と経験を持つ。著書に『子どもが自ら学び出す!自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書)、『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『個別最適な学びを実現するICTの使い方』(学陽書房)などがある
(撮影:今井康一)
次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事