学校と企業が連携できるような仕組みづくりを進める文科省

企業や団体、大学、地域などと学校が連携、協働した事例、そのためのツール、イベントの情報を掲載する文科省運営のホームページ

最近ニュースなどで、学校と企業が連携した実践をよく耳にするようになりました。文部科学省でも近年「開かれた学校づくり」として、企業との連携をいっそう充実するよう推進しており、全国で多くの実践事例が生まれてきています。

私が公立小学校の現場教員だった頃も、社会や企業からの学校への期待は高く、よくお声がけいただいていました。中には自社の利益を求めるような企業もありましたが、それ以上に「この国の未来をよりよくしたい」という願いや、「これからの未来を生きる子どもたちに、よりよい学びを届けたい」「教育に還元したい」といった熱い思いを持つ方が、学校外にもこんなにもたくさんいるのかと驚かされました。

学校教員の人間関係というと、どうしても教育業界で固まってしまいがちで、他業種の方と関わる機会は多くありません。とくに小学校では、大学時代に教育学部で学んでいるケースが多いので、学友はたいてい教員であることが多いです。最近では社会人から教員になるケースも増えてきているとはいえ、まだまだ少ないのが現状です。

最近では職務の多忙化も取り沙汰されますが、朝も早く、勤務時間後や土日にも残業や部活があるので、教育業界以外の友人と話す機会も少なくなってきてしまう傾向があります。せいぜい、他校の先生との研修や交流くらいなもので、どうしても同業者に偏りがちです。

私はたまたま企業連携を推進している学校に赴任したので、民間企業の方とも接点が多くありましたが、全国的に見るとそういう学校はまだまだ少ないようです。

総務省スマートスクール・プラットフォーム実証事業の一環で、プログラミングでドローンを飛ばす研究授業

とはいえ、言うまでもなく、学校現場は未来の社会を支えていく力を育む重要な場でもあります。これだけ社会の変化が大きい今日にあって、最新の社会変化の動向や時代認識をつねにアップデートしておくことは責務です。そのため文科省も、さまざまな施策を打って学校と企業が連携できるような仕組みづくりをしようとしているわけです。

それでは現状順調に進んでいるかというと、もちろん当時の私の勤務校も含め、企業との連携がうまくいったケースもある一方、大半のケースはなかなか進まなかったり、すれ違って頓挫してしまっているという話もよく耳にします。

学校が企業連携に後ろ向きにならざるをえない理由

私は現在、教育コンサルタントとしてもいろいろな企業と一緒に仕事をしたり、相談に乗ったりする機会が多くありますが、多くの経営者は「どう学校と連携すればよいのかわからない……」と困惑しているようです。

蓑手章吾(みのて・しょうご)
HILLOCK(ヒロック)初等部 校長
公立小学校で14年勤務した後、2021年3月に東京・世田谷にオルタナティブスクール、ヒロック初等部を創設、22年4月に開校。専門教科は国語。特別支援学校でのインクルーシブ教育や発達の系統性、学習心理学に関心を持ち、教鞭を執る傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士号を取得。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京・小金井の前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任するなどICTを活用した教育にも高い関心と経験を持つ。著書に『子どもが自ら学び出す!自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書)、『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『個別最適な学びを実現するICTの使い方』(学陽書房)などがある
(撮影:今井康一)

その原因の大半は、学校現場の後ろ向きな姿勢にあると感じています。大急ぎでフォローしますが、何もすべての先生方の「やる気」がないと言いたいわけではありません。なかなかやれない現状に立たされている、といったほうが正確でしょう。ここからは、学校がなぜ企業連携に後ろ向きにならざるをえないのかについて、大きく3点に分けて述べていきます。

1つ目は、学校は企業と癒着しないように細心の注意を払っているということ。学校には教科書をはじめ教材、制服などの選定や修学旅行先の選別など、少なくない金額を決定する局面があります。その際、上司や教育委員会からも口酸っぱく言われるのが「業者の接待を受けないように」という服務事故防止規定です。毎年のように全国ニュースでも、業者との癒着で教員が処分される事件を耳にします。現場教員からすると、わざわざ小さくないリスクを冒してまで企業連携を進めたくない、できることなら関わりたくないと思うのも、無理はないかもしれません。

2つ目は、冒頭でも述べましたが、学校現場の忙しさです。企業との連携事業となると、1時間単発というわけにもなかなかいきません。その場合、削られるのは「子どもたちが教科書で学ぶ時間」です。今の子どもたちの学習時間をご存じですか? 週休2日制では決められた学習内容が終わらず、平日の7時間目や土曜日、振り替え休日を返上して学習に充てているのが現状です。教科書を終わらせるのがやっと、そんな中に新たな学びを新設するとなると、さまざまな方面で相当工夫する必要が出てくるということです。

3つ目は、偏差値を上げるなど学校内外から成果が強く求められていること。ほとんどの学校は、単元の終わりや学期末に行う試験を基に通知表を作成し、家庭に報告しています。テストの点数や通知表の結果がよくないと、子どもは親に叱られるかもしれませんが、同じように教員や学校に対しても苦情が寄せられます。授業や教え方がよくないのではないか、もっと手厚くフォローしてほしい、居残りやプリントをたくさん出すべきだ……などです。受験などが関わる学年になってくると、比例して要望もエスカレートしていきます。

「社会を生き抜く力が伸びる」企業連携を推し進める方策とは

企業との連携事業を行うことで、社会を生き抜く力は大きく伸びると思います。しかし、それが目の前のペーパーテストにすぐに結び付くかというと、そうならないものが多いのもまた事実です。

子どもたちは楽しみながら力も付けたはずなのに、暗記する時間が減ったためにテストの点数が下がった……なんていう悲痛な声も耳にします。学習を理解できるようにしてあげたいという気持ちは教員も同じですが、同じくらい「親から責められたくない」「苦情を受け入れることで、これ以上仕事を増やしたくない」という気持ちもあるのではないでしょうか。

「企業との連携事業を行うことで社会を生き抜く力は大きく伸びる」と蓑手氏は話す。写真はいずれもプログラミングのツール開発者と共に行った授業の様子

以上のように、学校現場も苦しい中で、なかなか期待に応えられない現状があります。暗い話ばかりしてしまいましたが、繰り返しになりますが、企業や社会とつながることで子どもたちの学びは増幅します。企業連携を推し進める方策も最後に考えてみましょう。

企業連携が進まない原因は、一言で言ってしまえば大人の認識にあります。

文科省の取り組みのように、行政が責任を持って仲介し、学校現場の負担を抑えながら子どもたちの力を育んでいくこと。その実践や子どもたちの姿を発信し、保護者をはじめ、社会の大人全体で子どもを見ていく重要性を啓蒙していくこと。受験制度や暗記偏重の学習を見直し、これから求められる新たな学びに改革していくこと。それを教育現場任せにするのではなく、こちらのメディアのような多くの媒体が発信してほしいと思っています。

学校現場の実態をより多くの大人が知り、批判するばかりでなく、共に考えられるような機会や場をつくっていくことが、これからの社会を担う子どもたちを支えていく、すべての大人の責務だと思うのです。

(注記のない写真:蓑手氏提供)