
今、私は「民主主義ってなんだろう? 民主主義を守るための教育とは?」という問いに向き合っています。というのも、「まさか日本でこんなことが起こるとは!」という事件が起きたこと。
そして、その後の「これは民主主義への挑戦だ」という主張の下に、対話なく国葬などの物事が決まっていく様子を見るにつけ、そもそもこの国に民主主義はあるのか?と感じたからです。そこで今回は、民主主義という観点から、対話を重んじる国、デンマークの教育を紹介しつつ、皆さんにもこの問いについて考えてもらえたらと思います。
私がデンマークの教育視察に訪れたのは今から9年前。きっかけは、東日本大震災の後、自然エネルギーに関心を持ったときに、一冊の本に出合ったことでした。それは『ロラン島のエコ・チャレンジ デンマーク発、100%自然エネルギーの島』(新泉社)という本です。その本には、デンマークが自然エネルギー大国になるまでの経緯が描かれていました。
私が最も驚いたのは、石油ショックの後、原発を推進しようとした政府に対して、国民から安全性などについて疑問が呈示され、その是非を国民が熟議する期間を政府が認め、メリットとデメリットについて国民が対話し、結果的に原発推進が無期延期になったということでした。
政府がいったん決定したことを、国民が対話によって覆す。そんなことが可能な国ではいったいどんな教育が行われているのか……。この目で確かめてみたかったからです。

(写真:中曽根氏提供)
ツアーでは、幼稚園から小中学校・高校・成人学校まで一通りの教育課程の現場を訪れましたが、ロラン島で風力発電などのエコチャレンジの現場や森のようちえん、小・中学校の視察に同行してくださったのが、前述の本の著者・ニールセン北村朋子さんでした。今回、久しぶりにオンラインで今のデンマークの教育についても聞きました。
成長に合わせて入学のタイミングを決められるデンマーク
私がデンマークの学校を訪れて、とくに印象に残ったことを2つ紹介しましょう。それは、「ソフトランディング」と「探究型の学び」です。
ソフトランディングとは、個々それぞれの発達や特性に合わせた環境を用意し、じっくり自分に向き合いながら、成長することができるということです。
デンマークの義務教育は、0〜9年生までの10年間です。しかし、これは親が「子どもに教育を受けさせる義務」であって、就学の義務ではありません。また、日本と大きく違うのは、幼稚園から小学校、中学から高校、高校から大学と次のステージに上がる時期が一律ではなく、個々の発達や意思に合わせて進級する仕組みがあるということです。
まず、幼稚園から小学校へ上がる際、「0年生」が義務教育化されています。これは、小1ギャップを防ぐ仕組みで、1年生になる前に小学校の集団生活や授業にスムーズに参加できるように、徐々に慣らしていくための期間です。子どもたちは、0年生に上がる前の幼稚園での最後の半年間くらいで、徐々に幼稚園と学校の間を行き来しながら、学校という環境とそこにいる人に慣れていきます。
そして、小学校に上がる時期も個々の成長に合わせて決めることができます。 したがって、同じ学年の中に2歳くらい差がある子どもたちがいるのが普通の光景です。幼い子どもは生まれ月によって成長の度合いに差が出るし、個人差がある。これはとても合理的なシステムだと思いました。
また、中学から高校に上がるときも、学習進度に合わせて希望する生徒は「10年生」に進級する。あるいは、エフタスコーレという全寮制の学校に行くという選択ができます。エフタスコーレは団体生活を通して社会性を養いつつ、自分は何が好きで何をしていきたいのかを考える学校です。