政府の決定「国民の対話」で覆す、デンマークと日本の教育の決定的違い この国に民主主義はあるのか?から考える

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学校全体で500立方メートルの水が節約できたということは、この箱500個分だと、その量を視覚的に実感させながら、しかも1立方メートルは1リットルだと何本分かを問いかけ、単位換算も学ばせています。まさに、教科横断型の対話によるすばらしい授業でした。最後に先生が、この学校の技術員さんだということを伺って二重にビックリ。日頃、学校の電球を替えるなど、学校の中でいちばんエネルギーに関わっている人だからと、担任の先生も任せているのです。

小学2年生の環境の授業風景。みんなの努力でどのくらいの水が節約できたかを、1立方メートルの板を4つ立てて作った箱を使って説明する
(写真:Fish Photo 笹谷耕二郎氏提供)

地球環境を守ることが優先順位

ビジュアル気候センターの科学地球儀「Science On a Sphere® (略称:SOS)」。現在は日本の東松島市にある「ディスカバリーセンター」でも見ることができる
(写真:Fish Photo 笹谷耕二郎氏提供)

次に6年生の校外学習で訪れたのは、学校近くの「ビジュアル気候センター」。ここには、巨大な地球儀型のモニターが据えられていて、NASAの研究所に集まるデータを映し出すことができます。ここでもガイドが児童に質問しながら、温暖化による海面上昇の問題、経済とエネルギーの関係などについて、実際のデータによる映像で確かめながら学んでいました。

私たち日本人にとって最も衝撃的だったのは、福島第1原発事故で放射性セシウムが世界中にどう拡散したかを映した場面でした。こういう事実を、デンマークでは小学生でもちゃんと知っているということ。そして、地球環境を守るためにはどうしたらいいのかを、当事者意識を持って考えているのです。当時、このことをちゃんと把握している日本人がどれほどいたことでしょう。私は恥ずかしさすら覚えました。

朋子さんによると、今はエコチャレンジからさらに進化して、食糧危機と地球温暖化の問題が緊急の課題になっているそうです。デンマークの主要産業の1つは養豚ですが、このまま肉食中心で行くと世界中に食糧は行き渡らないし、化石燃料を使い続ければCO2も削減できない。そこで、2030年以降、国民の食べ方を変えて肉の消費量を抑え、2050年までに化石燃料から脱却すると政府が宣言しているのです。食農大臣自ら『デンマークの食の展望』という本を出版し、国民の意識改革を喚起しているそうですが、朋子さん自身も、「食を通して地球のあり方を考える」フォルケホイスコーレの開校の準備をされています。

小国のデンマークがそれを果たしたとして、世界に対する影響は微々たるものです。それでも、デンマークがそれを率先して実現できたら、それが世界のモデルになる。基幹産業である養豚を手放しても、何が重要かを考えて持続可能な未来を見据えて先手を打っていく。これはどの国より早く自然エネルギーを推進し、自然エネルギー輸出国になったプロセスと同じだと感じました。

対話によるボトムアップの民主主義が根付いている国の教育

世界のファシリテーターを目指しているというデンマークでは、対話によるボトムアップの民主主義が根付いています。

毎年6月に4日間にわたって民主主義フェスティバルが開かれ、首相をはじめ5万人を超える市民、国会議員、NGO、企業の代表者などが集まり、さまざまな課題について議論し、歌を歌い、食を共にしながら民主主義を祝うというから、いかに民主主義を大事にしているかが伺えます。

朋子さんによると、デンマークの先生は「世の中には多様な人がいるのが前提で、その中でいかに人と対話してコンセンサスを取るのかが大事だから、それを試す場所が学校だ」と言うそうです。学校は、意見が違う人とのコミュニケーションの仕方を学ぶ場所だということ。これは本質的なことだなと思いました。友達関係で悩む子どもに「なぜ学校に行かなくちゃいけないの?」と言われたときに、そもそも学校は人との対話を学びに行くところだと答えられる場所だったらどんなにいいでしょう。

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