中国が日焼け止めを「隔離クリーム」として売る訳 国や地域に合わせたブランド表現が成功のカギ
このブランドカルチャライズを、私は次のように定義しています。
“ブランドカルチャライズとは、進出先の国・地域の消費者の「知覚」に合わせてブランドの表現を調整すること”
ブランドカルチャライズを具体的に見ていくうえで、ヘアケアブランドの「パンテーン」がわかりやすい例です。グローバルブランドであるパンテーンは、日本向けのキャンペーンで「奇跡は1日では起こらない、まずは14日間」という広告表現を使いました。
一方、フィリピンでのパッケージには次のように表現されていました。
「3 minute miracle(3分間の奇跡)」
いずれも「奇跡」という言葉は共通していますが、両者の意味はまるで異なります。これはトリートメントを3分使うことで奇跡を起こす、というニュアンスで表現していますが、同じパンテーンの日本のトリートメントには3分間の奇跡とは表現されていません。
海外では「奇跡は3分で起こる」と打ち出しているものの、日本では3分どころか、1日でも起こらず、2週間は必要だといっているのです。3分間の奇跡というメッセージ、海外の人たちは受容することができても、日本人には手頃な価格のヘアケア商品を使って3分間で奇跡が起こるというのは、いかにも大げさに感じてしまうという背景があったのでしょう。
国ごとに異なる消費者の知覚を捉え、ブランドの表現を調整したことで、パンテーンはいずれの国でも受け入れられたのです。
日焼け止めを違う名で売る中国
ほかにも、中国の「隔離クリーム」という商品カテゴリもブランドカルチャライズを表す良い例です。この隔離クリームは、日本でいう化粧下地や日焼け止めとほぼ同じものですが、肌を外部環境やメーキャップから隔離して保護するものとして認識されています。
この商品カテゴリが盛り上がってきたのは、中国でも徐々にメーキャップが一般的になった時期と重なります。
もともと中国では、メーキャップは肌に負担をかけるものとして捉えられ、メーキャップはしたいけれど肌の負担が心配という消費者も多かったのです。加えてPM2・5の大気汚染が深刻になりはじめた時期で、外敵による肌へのダメージという悩みが徐々にマーケットに広がっていました。
最初に隔離クリームのカテゴリを打ち出した商品は、SPF15の日焼け止めでした。海外ではSPFが高いと肌に負担が大きいので、SPF15程度のほうがよいと知覚してもらえる地域もありますが、中国においては日焼け止めとしては物足りない、と知覚されてしまいます。
そこで、「日焼け止め」というカテゴリではなく、そうした外敵から肌を隔離するためのクリームとして打ち出したのです。
当時の社会的なニーズとうまく合致して売れ行きを伸ばし、その後多くのブランドが隔離クリームとして打ち出し、一気に商品カテゴリとして確立されました。
商品カテゴリ自体をずらす、もしくは新しく作ることで消費者に受け入れられやすくする戦略は、マーケティングの手法として珍しいことではありません。
「ブランドカルチャライズ」とは、これまでのマーケティングのフレームワークやプロセスを踏襲しつつ、ブランドが海外でより愛され、選ばれるように開発・育成していく切り口なのです。
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