鉄道技術の外販で稼ぐ、JR西日本の新市場開拓 簡易型情報端末や自動改札機向けAIで実績
琵琶湖の西側を走るJR湖西線は特急サンダーバードが高頻度で行き交い、関西圏と北陸地方を結ぶ重要路線だ。北陸地区の特急網は2023年度末に予定されている北陸新幹線敦賀延伸で改変が見込まれるが、その後も湖西線は関西圏と北陸新幹線を連絡する特急が走ることが予想され、湖西線の重要性はさらに高まる。しかし、湖西線は2~3月を中心に「比良おろし」と呼ばれる強い局地風が吹き、たびたび運行に支障をきたしている。運転見合わせは利用客に大きな負担がかかり、運転再開にも時間を要する。安全かつ効率的な運行計画には天候を詳細に「読む」必要がある。
JR西日本はデータサイエンスを活用し気象予想に力を入れているものの、自社のみで高精度のものを単独開発する力はなかった。そこで目をつけたのが大阪ガス。同社はガス供給をはじめ、空調機器、エネルギー事業などを安定的に運用する狙いから30年以上前からコンピューターによる気象シミュレーションを実施している。この気象データとJR西日本のAI技術が2019年に結びついた。
本事業を担当するのはJR西日本デジタルソリューション本部の兒玉庸平氏。情報の分析、処理を行うデータアナリティクス業務に従事している。JR西日本と協業するIT企業の技術力を見極める目的で、「新幹線の線路における積雪量を予測するコンペ」が社内で実施された際、大手IT企業のエンジニアに交じって7位に入賞したのが兒玉氏である。
「大阪ガスさんからいただいたデータがどんなに優秀なものでも、AIがそれをきちんと調理しなければ生かすことができません。AIにどのような計算をさせるのか、そこが難しいポイント」と兒玉氏は言う。
大阪ガスエネルギー技術研究所の髙谷怜主任研究員もその考えに同意する。自身も気象予報士の資格を持つ髙谷氏は「自社事業を効率的かつ円滑に進めるためには気象庁から発表される情報だけでは足りず、西日本に特化したより高密度、高精度な詳細の気象情報が必須です。関西地区に特化した詳細で膨大な気象データが、今回の湖西線というピンポイントな箇所の風予測に活用できました」と語る。
運行計画の判断材料に
大阪ガスは気象庁が提供する予測よりも解像度の高い気象シミュレーションを行っている。そこから得られるデータと湖西線の沿線に設置された各風力計の実測値との関連性を組み合わせた「予測モデル」をJR西日本、大阪ガスの2社共同で開発した。
「現地観測と気象シミュレーションを分析することで、例えば気温の低下と風の関連性など、さまざまな要素と強風との関連性を見いだし、モデルに反映することができた」(髙谷氏)。これにより1時間単位で24時間先までの瞬間最大風速を3時間おきに推論し、さらに風向を考慮した運行判断用の情報を輸送指令に配信、当面の運行計画の判断材料とする。
髙谷氏の両親の郷里は北陸富山だ。特急サンダーバードを多用することから本プロジェクトへの熱意は深い。また、兒玉氏は北陸新幹線の指令員を務めた経験もあり、乗務員の経験とともに、データの先にある「現場」を見つめながらプロジェクトに向き合った。
データを読み解き、技術を創り、収益を生み出す。JR西日本の新たなる挑戦が続いている。
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