──10年以上、メディアと政治の研究をしてきて、どのような変化が見られましたか。
何より、マスメディアの力がなくなりました。とくに新聞の影響力が大きく落ち込んでいる。発行部数の減少はもちろん、新聞社の社員数も減り、今の記者数は約1万7000人と10年前より約3000人少ない。記者が減ると一人ひとりの負担が増し、1つの取材に割ける労力と時間は減ります。
マスメディアは、政治・行政に対する監視役を担ってきたが、新聞社の弱体化によって監視の目が甘くなり、政治が優位に立っている、というのが近年の状況です。
新聞社より業績のよいテレビ局に期待したいところですが、民放は報道やジャーナリズムを担う者としての自覚が弱い。報道部門はコストセンターと捉えられ、担い手不足が深刻化しています。
インターネット発のメディアについても、現時点では、報道や権力監視の役割を果たせてはいない。拡散を狙い、情報を流すだけのウェブメディアが大半です。
ゼレンスキー大統領の情報発信が持つ意味
──SNSなどの影響力は増しています。今後、マスメディアではなく、一般の人々による直接の監視に期待できませんか。
極めて困難です。SNSはむしろ権力者の優位性を強化しがちです。例えば、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって間もない頃、ゼレンスキー大統領が行った情報発信は見事なものでした。彼は侵略された国のトップが採りうる現実的な策を採りました。
ただし注意が必要なのは、ゼレンスキー氏の情報発信は「ウクライナにとって都合のよいもの」でしかない、要はプロパガンダであるという点です。
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