日野田直彦校長、千代田国際中で「海外大学への直接進学」視野に新たな挑戦 教育には「偉大な勘違い」が欠かせないワケ

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「本当になりたいものがあるならどんな職業でも構わないし、大学進学も絶対ではない。いちばん大切なのは自分の天命に気づき、何がしたいのかを考えることです。子どもの頃から家庭でそうした話が自然にできていれば、それはおのずと形になってくることではないかと思います」

戦後の高度成長期には労働者を大量に育てる必要があったし、既定路線から外れないことが生きるすべでもあった。だがこれからの社会では、その発想は通用しない。日野田氏は「現在の東京でも、阿諛追従(あゆついしょう)する人材を量産するような教育がいまだに行われています。自分の人生のオーナーシップを自分で持つべき時代に、いい大学に入ればそれでいいと思っているのはそうとうまずい」と危機感をあらわにする。

国語と美術を掛け合わせたSBL×PBLの授業の例。イラストと言葉で物語を考え、伝えるための多様な表現を学ぶ(写真:千代田国際中提供)

日野田氏いわく「教育には『偉大な勘違い』をさせることが欠かせない」。それは決して、大人が手を貸したことを「自分の力でできた」と思わせることではない。

「できるよと言ってあげたり、夢をかなえた人が身近にいたりすると、子どもは素直に『自分にもできるかもしれない』と信じることができます。それが勘違いであってもいいし、そうした勘違いをさせることが私たちの仕事です。できると思って子ども自身が動けば本当に実現できるのですから」

偏差値50台の箕面高校から、何人もの生徒が世界の名門大に進んだ。千代田国際中の系列高校からも、日野田氏の就任以降、帰国子女でもインターナショナルスクール出身でもない生徒が米イリノイ大学への進学を果たしている。

また、千代田国際中では「FA特待(ファイナンシャルエイド型奨学金)」の制度を設け、保護者の年収が低い家庭の子どもを対象に支給する。家庭の経済状況に応じ、日野田氏の人脈も駆使して「奨学金をかき集めている」と言う。

「世界の大学の学費は交渉で下がることもあるのですが、多くの日本人はこれを知らない。インターナショナルスクール出身の人なら大体知っていることなのですが、こうした知見も広めていきたいと思っています」

公立高校での校長勤務経験もある日野田氏は、経済格差が教育格差になってはいけないと考えている。高級住宅街に位置する私立中学校に勤める現在もそのポリシーはぶれない。最たるものは「学校モデルのオープンソース化」だ。

「海外大への直接進学者は、注目されている割に実はまったく増えていない。むしろ減っているのが現状です。箕面高校でもこの学園でもできるのですから、方法さえわかればどこの学校でも必ずできるはずなのです。そのやり方をプロトタイプとして、関心のある全国の学校でぜひまねしてもらいたい。ノウハウを隠そうとか、うちだからできるなんて言う気はありません」

日野田氏の掲げる理想は至極まっとうで、それゆえに当たり前のことのように思える。だがそれらが多くの場面でいまだ実現していないのはなぜなのか、そして日野田氏の下では実現するのはなぜか。同校のある職員は日野田氏について、「日野田先生は当たり前のことも言語化して背中を押してくれる。大人にも子どもにも、できると思わせる力がある」と語った。その力はおそらく、日野田氏自身がそう信じていて、実際に行動してきたからこそのものだろう。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:梅谷秀司)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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