日野田直彦校長、千代田国際中で「海外大学への直接進学」視野に新たな挑戦 教育には「偉大な勘違い」が欠かせないワケ

1977年生まれ。武蔵野大学附属千代田高等学院、武蔵野大学中学校・高等学校の中高学園長、千代田国際中学校校長。帰国子女として育ち、帰国後は同志社国際中学校・高等学校に入学。学習塾などを経て、2014年、公募等校長制度で大阪府立箕面高等学校の校長に就任。21年から現職。著書に『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか⁉』(IBCパブリッシング)がある
和を貴び、中庸を体現できる日本人の需要はあるが、それはただ英語ができるだけの人ではない。自らを知り他者を理解し、文化のイクオリティー(平等性)を実現する力を持つ人で、なおかつ英語ができる――という順序だ。だから日野田氏の英語教育ではまず思考力を育てるし、昨今の「論破」をもてはやす風潮にも警鐘を鳴らす。
「私がいた頃のタイもそうでしたが、治安の悪い国で相手を軽々しく論破なんてしてはいけません。相手によっては恨まれて刺されますからね」
そう冗談を交えつつ「相手を論破して全否定してしまえば、そこで関係のすべてが終わってしまいます。どんな場合でも、私が重視したいのは『関係の質』です。日本人のよさはそういうことにもあったはず」と続ける。
「関係の質」とは何か。日野田氏は学校改革に当たって、つねに教員たちとの「関係の質」を向上させてきた。
「箕面高校でもこの千代田国際中でも、私が来たばかりの頃は先生同士の仲が悪く、陰口を言い合い、けんかしている状況でした」
つねに結果を求められ、失敗の許されない状況では、教員たちは「嘘をついて格好つけようと」してしまう。新たなやり方に対する反発も大きく、「それはいかがなものか」などという否定の言葉が飛び出す。
「相手を否定するだけで何も生まない『いかがなものか』という言葉は、私はファシストの言葉だとさえ思っています(笑)。でも先生たち一人ひとりはみんないい人だし、能力もある人たちなのです。これは天動説を唱える人に、地動説が急には伝わらないようなもの。まずは腹を割って話せる関係をつくることが必要なのです」
千代田国際中の校長に就任してから、日野田氏は教員たちに「陰口は禁止。言いたいことは直接私に」と呼びかけたり、カジュアルなピザパーティーをしたりして、本音を言い合える関係を築き上げた。
「思うことを言ってもいいんだとか、失敗してもいいんだと思えれば、先生たちも肩の力が抜ける。生徒たちが安心できる状態でこそ勉強に打ち込めるのと同じです」
「関係の質」が高まれば教員は自由になり、その空気は生徒にも伝わる。日野田氏の校長室には、休み時間や昼休み、生徒が引きも切らずにやって来る。「校則を変えたい、どうしたら?」「古いベンチの改修プロジェクトをやりたい」などというプレゼンテーションから、進路や日常に関する悩み相談までその内容は幅広く、「なんなら先生も遊びに来るので、全然休めないんです」と日野田氏は笑う。
「学校モデルのオープンソース化」で生徒の夢をかなえたい
日野田氏は、英語もICTも単なる手段にすぎないと語る。偏差値や知名度で大学を選ぶことをよしとせず、生徒たちには何を学びたいか、師事したい先生がいるかどうかで進路を選ぶよう指導している。