「部門長制」にして、メンバー全員の当事者意識の醸成を目指しているのです。例えば「スケジュール部門長」は、報告会から逆算して「いつまでに何をするか」などスケジュールを示し、各活動を促します。美術部門長であれば、チラシやポスターなどを作製する際のコンセプトの提示や依頼を担います。お化け屋敷プロジェクトでは、次のような会話が見られました。
スケジュール部門長:「この調子だと間に合わないから、今日の休み時間に集まってね。ポスター作りはどう?」
美術部門長:「怖いイラストが描ける人にお願いしています。明日にはできそうだって」
交渉部門長:「本番に流すBGMを放送委員会の先生に借りたいんだけど、誰か一緒に交渉に行ってくれる人いる?」
発表部門長:「いいよ~。このことも報告会の時に伝えるから、〇〇くん記録お願いね」
このように互いに仕事を担い合うことで、全体の進行具合を全員が把握し、ゴールに向けて進み続けます。
総括的評価だけではなく、形成的評価も重視
「振り返り」も重要です。子どもは実感を伴った「気づき」を得たときに大きく変わりますが、その気づきを生むために僕は毎回、時間内に小さな振り返りの機会をつくっています。
例えば、冒頭の5分間では前回の振り返りと取り組み予定の確認を促し、活動の間にも「順調に進んでいますか? 困ったことがあれば相談しに来てください」と声がけをします。最後もその日の活動を振り返り、各自の気づきや悩みを全体にシェアして学び合えるようにしています。
振り返りのシェアをすると、互いに「批評」し合う機会も生まれます。批評にさらされると新たな気づきを得ることができ、プロジェクトをよりよいものへと高めていくことになるので、クリティカルシンキングの力が養われます。例えば、お化け屋敷プロジェクトのメンバーの振り返りでは、子どもたちの間でこんなやり取りが見られました。
Aさん:「暗幕を借りるために理科の先生のところに交渉に行きましたが断られてしまいました。残念です」
Bさん:「いつからいつまで借りたいか伝えたら貸してくれるんじゃないかな」
Aさん:「あ、伝えてない! 確かにそうかも」
Cさん:「うちのプロジェクトも倉庫の移動黒板を借りる交渉をするので参考にするね」
自分では気づけないことも、第三者の視点からよいアイデアが生まれることはよくあるということを子どもたちは学んだのではないかと思います。多くの場合、作品や最終的な発表会での「総括的評価」のみが行われがちですが、PBLでは、こうした「批評と修正・改訂」を繰り返し、活動のプロセスを相互に評価し合う「形成的評価」も大切にしています。
子どもたちの「自立した学び手」への成長を見て今思うこと
PBLの集大成は、「成果物を公にする」こと。僕はプロジェクトを2カ月単位とし、発表会を行っています。
例えば、前述のお化け屋敷プロジェクトは大盛り上がりの中、終了。本番後、参加者は「ファンレター」という形で感想をプロジェクトメンバーに送ります。「生まれて初めてお化け屋敷に入ったけど、めちゃめちゃ怖くて面白かったよ!」といったファンレターをもらったプロジェクトメンバーは、みんな大喜びでした。
翌日の1年生を招いてのお化け屋敷も大成功。廊下には長蛇の列ができ、怖くて途中でギブアップする子や大興奮で「もう一回入りたい!」という子なども続出し、プロジェクトメンバーはその反応を受けてさらに大きな手応えを感じていたようです。
その後、お化け屋敷プロジェクトを含む全プロジェクトがクラスの仲間の前で2カ月間の取り組みについて報告する「報告会」では、仲間からの批評に満足するプロジェクトもあれば、準備が足らず悔しい思いをするプロジェクトも。しかし、「思うようにいかなかった経験」が大きな糧になることも少なくありません。