南海「車庫内脱線」特急正常化に時間がかかる事情 特急車両の予備が少なく一般車両でやりくり

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検査が1日で済めばいいが、完全な分解作業を伴う大掛かりな検査では、最低でも1週間以上は営業運転から外す必要がある。やむをえず、大掛かりな検査では2編成体制での運行になるが、これには合わせ技で対処している。

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1つは「こうや」の一部を運休させることだ。冬季は「こうや」の利用が少なく、土休日の一部の列車を運休させている。2つ目は、南海高野線から泉北高速鉄道線に向けて運転している「泉北ライナー」の車両を「りんかん」で使用することで、3編成目体制での運行を確保している。

3編成そろえれば「こうや」の運行もできそうだが、「泉北ライナー」で使用している南海の車両は、「こうや」で使用することができない。「こうや」の走行区間のうち、橋本―極楽橋は急カーブや勾配が連続する区間で、この区間の走行に対応した車両が限られているためだ。先の「泉北ライナー」用の車両は、なんばー橋本間を走る「りんかん」用としてつくられた経緯を持つが、橋本―極楽橋間の走行には対応していない。

また、このやり繰りによって「泉北ライナー」の車両がなくなってしまうが、「泉北ライナー」には特急「サザン・プレミアム」で使用している車両を代わりに用いることで対処している。このために、「サザン」の車両と「こうや」の車両は、大掛かりな検査が重ならないよう、工程(スケジュール)を調整しているわけだ。

ラピートの融通は難しい

南海の特急では、関西国際空港へ向かう特急「ラピート」が有名だが、「ラピート」の車両は「ラピート」、「サザン」車両は「サザン」として独立して使用され、互いに融通を利かせて使用することが難しい。

今後は、「こうや」「りんかん」の完全復旧を目指すことになるが、脱線した車両の損傷がどの程度で、どのような対応になるのかが注目されるだろう。

柴田 東吾 鉄道趣味ライター

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しばた とうご / Tougo Shibata

1974年東京都生まれ。大学の電気工学科を卒業後、信号機器メーカー、鉄道会社勤務等を経て、現在フリー。JR・私鉄路線は一通り踏破したが、2019年に沖縄モノレール「ゆいレール」が延伸して返上、現在は車両研究が主力で、技術・形態・運用・保守・転配・履歴等の研究を行う。『Rail Magazine』(ネコ・パブリッシング)や『鉄道ジャーナル』など、寄稿多数。

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