
蓑手:とてもいい話ですね。昔は近所のおじさんや親戚のおばさんなど、子どもの周りにたくさん大人がいたので、多様な意見を聞くことができました。一方、今はコミュニティーの希薄化と核家族化が進み、子どもに関わる大人は親と教員くらい。身近な大人からこぞって「暇なら勉強しろ」「そんなことをやっても意味がない」と言われれば、子どもはすぐに納得してしまうでしょう。
卓也:僕は、自分の好きなことを大人に堂々と言えなかった感覚があります。だから、先生には子どもが何を言っても恥ずかしくない空気をつくってほしい。学校方針や授業体制は変えられなくとも、これは個々人の先生が簡単にできるのではないでしょうか。
蓑手:過去の取り組みで僕は、「スクールタクト(学校版SNSのような授業支援ソフト)」に児童の好きなものを投稿してもらっていました。ボカロでもアニメでも韓流アイドルでも、まずは安心して「好き」を表現できる場をつくるんです。友達の投稿を批判する子には、その場で話をするようにしました。また、コロナ禍の一斉休校中は、自分の好きなことをとことん追求してもらって、その成果をオンライン上で披露してもらいました。レゴで超大作を完成させた子もいれば、料理の腕を驚くほど上げた子もいます。そこに優劣はありません。友達の成長に刺激を受け、新しい世界を知ることこそ、まさに学校の意義なんですよね。そこで先生や友達に「すごいね!」と言ってもらえれば、子どもにとってはかなりの自信になります。学校はこういう場であればいいのに、と思います。

学校教育と家庭教育は連携できていない?
卓也:先生と親の間でも、「〇〇君はこれが好きなんですね」などと情報を共有できれば、よりスムーズなのではと思います。僕は、学校と家庭である程度コミュニケーションを取りたいと思うのですが、現状はあまり連携できていない印象があります。蓑手先生は、学校教育と家庭教育のすみ分けをどうお考えですか。
蓑手:おっしゃるとおり、公立小学校と家庭はほぼ連携できていません。幼稚園や保育園まではお迎えの時間で会話ができますが、小学校では年に数回の面談しか話す機会がないことも多いです。結果、学校に信頼を置けないという親御さんも増えてしまいましたが、今の公立小学校において、保護者に密にアプローチする余裕がある教員はほとんどいないと思います。
卓也:実際、各ご家庭の教育と学校の教育との間にはギャップを感じますか?
蓑手:かなり感じますね。親の中には「やられたらやり返せ」と言う方もいるし、「絶対に手を出すな」と言う方もいる。ほかにも「うそだけはついてほしくない」とか「何としても成績は下げたくない」などあまりに多様で、正直すべてには対応できないんです。結局、保護者のニーズは置いておいて「去年もやっているので……」と通してしまうのがリアルです。
卓也:僕には娘が2人いますが、蓑手先生にもお子さんがいらっしゃいますよね。
蓑手:はい。小2の長男と2歳の次男です。