「少年院」で数学を教えた先生が見た学校との違い 「背中を見せてはいけない」「ホチキス留めNG」…

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そこで、ふと大学時代の恩師のことを思い出しました。私は28歳で進学しましたが、多くは18、19歳で入学してきます。だから、大学の教官からすれば子どもですよ。でも、私の恩師は、学生でもひとりの大人として対等に接していたのです。

だから、研究室でふたりになったとき、「先生は学生でも他の教官に対しても変わらない同じ対応ですよね」と問いかけたら、「髙橋くん、学生さんもひとりの人間として対等に対応するのは普通のことなんですよ」と。その言葉を思い出し、私が教える側、少年たちは教わる側との関係ではなく、高認資格を取得することで「生きる力」を一緒に勝ち取ろうという同志の感覚を共有したいと、少年たちを皆「さん」づけで呼ぶことにしました。

② 授業で「〇〇〇(だ)(よ)ね!」とは、絶対に言わない

よく授業中、指導者が生徒に投げかける言葉に「ここまではいいよね! 先に進むよ」「この説明は大丈夫だよね!」などなどがあります。この文末に使われる終助詞「~よね」は、一般的に確認であり、また相手に同意を要求するような言い方です。だから、教わる側はよほど神経が図太くないと、授業の雰囲気を読み取り、「分かりません」「大丈夫ではないです」「もう少し説明してください」とは、なかなか言えるものではありません。

そこで私は授業中、説明のあとは必ず「ちょっと難しいかもしれないが、今の説明はどうですか? 分かりづらかったですか? 何でもいいから疑問があれば質問してください」と、語りかけます。

指導の「マジックワード」

なぜ、このような少し長い言葉を投げかけるのか? またなぜ「ちょっと難しいかもしれないが……」を言うのか? この「ちょっと難しいかもしれないが……」は、指導する側のマジックワードなんです。

このひとことがあれば授業を受ける側としては「もし説明が分かれば、本人にとっては自信にもなるし、分からなければ、難しい内容だから、分からなくてもいいんだ!」と安心するでしょ! だから、どちらに転んでも、少年たちにはマイナスではなく、プラスになるわけなんです。

何人もの人を相手に指導するとき、全員に理解してもらうことはなかなか難しいものです。だからこそ、ひとりも置いてきぼりにはしたくないので、とことん教わる側に寄り添いたいと努めています。

③目を見て、全員に当てる

少年院での授業と学校の授業とで物理的に大きく違う点は、授業の参加人数です。

2021年度以降、中学校での改正はありませんでしたが、小学校では5年をかけて全学年35人学級にするとのこと。

このように、指導時の人数は、教える側としてはとても気になるところなのです。

少年院でこの5年間、年3回(3月・6月・9月)授業を行ってきましたが、参加者は一番多くて30人、通常は15人前後と、教える側も教わる側もちょうどよい環境です。それゆえ、ある項目の説明後、1問ごとに答え合わせをするときは全員を指し、ひとりずつ必ず目を見て「大丈夫? 難しくない? 質問は?」と確認をします。

また、何か質問をするときでも、端から順番に、目を見て全員に当てていきます。そして、分からない少年には「後でまた聞くからね!」と言い、後ろの少年に質問をする。この流れでみんなが理解できたと感じたら、再度、先ほど分からなかった少年に対し類題を質問し、答えてもらいます。これを繰り返すことで自信を持ってもらえるとともに、「みんなのことをちゃんと見ているよ!」と、少年たちに伝わるよう常にさまざまな信号を発しています。

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