「少年院」で数学を教えた先生が見た学校との違い 「背中を見せてはいけない」「ホチキス留めNG」…

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ただ、このように授業中叫ぶ少年は珍しく、常に落ち着いた雰囲気で静かに授業は進んでいきます。それゆえ、あまりに少年たちが静かなので、村尾院長に「非行少年の授業とは思えない落ち着いた授業で驚きました」と話したのです。すると、村尾さんからは「このようにお客さん(外部の人間)が来たら、静かにすることを理解させることから始まるんです」との返答。矯正教育をまったく理解できていなかった私には、驚くことばかりでした。

また、通常の学校では普通の光景ですが、当時、少年院では少年に黒板で問題を解かせることを行っていませんでした。理由としては、少年たちの席からの移動を禁止していたからです。ただ、私たちが参加するようになり、瀬山先生が前で授業をするときは、教官がふたりで少年たちの様子を見ることができることもあり、そのときは、少年に前に出てもらい、黒板で問題を解かせることを認めてもらえるようになりました。

この少年を席から立たせ、黒板(ホワイトボード)で問題を解いてもらう件は、18、19歳を対象とした高認試験対策講座のときも、ひとりならよいが、ふたり以上の少年を前で解かせることには、最初、施設側が難色を示しました。が、最終的には許可が出て、3人まで一緒に解いてもらうことができるようになりました。

学校教育では見ることができない光景

このように、些細なことのようですが、常に緊張の中、少年院内では授業が行われています。さらに言えば、施設に関係なくどの少年院でも、少年たちが授業を受ける姿勢は、にぎりこぶしを膝に置き、椅子に直角に座り、背筋を伸ばし、いわゆる学校でクラスの全体写真を撮るときに前列で椅子に座っている姿勢を授業中、常に皆がしているのです。この風景を想像するだけでも、やはり通常の学校の授業とは違うことが分かって頂けるかと思います。

さらに、絶対に学校教育では見ることができない、衝撃的な光景も目にしました。

それは、中学生ではなく、18、19歳の少年を対象にした授業でのこと。授業終了後、部屋を出るとき、少年たちは教室の出口に一列に並び、ひとりずつボディーチェックと鞄の中の確認をされるのです。そして、廊下に二列縦隊に並び、点呼として「いち、に、さん、……」と番号を言わせ、人数確認が済むと、先頭の少年の号令のもと寮まで一糸乱れることなく行進して戻って行くのです。

なかなか少年院での様子を知ることはできないので、もう少しだけ、気づいたことをお話ししたいと思います。

九州のある少年院でのこと。模範授業をすることになり、そこで「5本の杭を3mおきに打ち、各杭をロープでゆわくことにした。ロープは何m必要ですか?」という問いを出したのです。すると、問題を解く以前に、少年たちから「先生、〝ゆわく〟の意味が分かりません!」と。「エッ? 〝ゆわく〟が分からないの?」と私。

どうも、地域により〝むすぶ〟でないと通じないようなのです。そこで、その場にいた教官に、「先生は〝ゆわく〟の意味は分かりますか?」と質問し、さらに「先生の出身はどこですか?」と問うと、教官は困ったように無言になり……。

そこで再度質問すると、首を横に振り、「その質問は、ダメダメ!」との強いオーラを発しているのです。私は「エッ、先生方の出身地を聞いてはダメなの?」と、つい聞いてしまい、すると教官が大きくうなずいたのです。さらに言えば、教官方の下の名前を少年たちに知られることも厳禁のようです。

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