苦しむ子どもを救う「公的第三者機関」の設置が日本で遅れている理由 川西市「子どもの人権オンブズパーソン」に聞く

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1980年代から欧州を中心に設置が広がる「子どもコミッショナー」(子どもオンブズパーソンなど名称はさまざま)。行政から独立し、子どもの権利の観点から調査や提言、勧告を行う第三者機関だ。国内でも、こども家庭庁の創設に合わせて設置が議論されたが、2022年3月、「こども基本法案」の要綱には盛り込まれなかった。一方、一部の自治体では独自に子どもの権利を擁護する機関を設けている。その先駆けが、兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」だ。これまでの活動や日本の課題などについて、話を聞いた。

20年以上の実績、日本初「条例に基づく子どもの救済機関」

兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」は、いじめ・差別・体罰・虐待などで苦しんでいる子どもたちを救うため、20年以上前に市の条例により創設された公的第三者機関だ。

1990年代以降、全国の学校で深刻ないじめの問題がクローズアップされたことが創設の背景にある。当時、同市もいじめ問題を重要視し、小・中学生にアンケート調査を実施。すると、クラスで1~2人の子どもが「生きているのがつらい」と感じるほどのいじめを受けていることが判明した。

そこで元教員だった当時の市長が、国連の「子どもの権利条約」(日本は94年に批准)を体現すべく、自治体に求められる行政と立法のアプローチとして、子どものための公的第三者機関の設置を目指したという。そして98年12月に市の条例が可決され、翌年に市長の付属機関として「子どもの人権オンブズパーソン」が誕生。子どものための独立した権利擁護機関としては国内初の設置となった。

21年度のオンブズメンバーは、市長に委嘱されたオンブズパーソン(非常勤特別職)が3名で、弁護士や大学教員で構成されている。相談員と呼ばれる調査相談専門員(会計年度任用職員)の4名は、教育学、心理学、福祉学などの大学院修了者らが担当。そのほか事務局職員が1名、オンブズパーソンから要請があった際にアドバイスを行う専門員として、精神科医やNPO関係者、元オンブズパーソンらが11名おり、総勢19名で子どもの救済に当たった。

対象となる子どもの定義は、同市に在住・在学・在勤の18歳までの子どもたちだ。まず相談員が相談者の話を聞き、オンブズパーソンが指揮・支援する体制をとる。

子どもの救済に加え、制度改善の提言や勧告も

現在、条例に基づく子どもの権利救済機関を設置している自治体は三十数カ所を数えるが、取り組み方はそれぞれ異なる。川西市で2021年度まで6年間、オンブズパーソンを務めた佛教大学准教授の堀家由妃代氏は、同機関の特徴について次のように説明する。

堀家 由妃代(ほりけ・ゆきよ)
佛教大学准教授。専門分野は、特別支援教育、教育社会学。元川西市代表オンブズパーソン
(写真:川西市子どもの人権オンブズパーソン事務局提供)

「子どもに対して相談員がカウンセリングするだけでなく、学校や教育委員会、家庭との調整を行います。必要に応じて調査を実施し、市の制度などに問題点があれば勧告や提言できる権限を持っていることも大きな特徴です」

例えば、18年には教育委員会に「いじめ防止等の対策をより効果的に推進するための提言」を行い、いじめ防止基本方針やマニュアルの作成など改善が図られたという。また、最近では全国的にメールやLINEを活用した相談窓口も増えているが、「子どもの本音にたどり着くためにも、できるだけ直接会うことを大切にしています」と堀家氏は言う。

さらに週に1回、相談員とオンブズパーソンが各案件の対応について協議する。相談員の平野裕子氏は「さまざまな立場から問題を丁寧に考えていく点も、川西市の特徴といえます」と話す。

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