法律で禁止されている「しつけと称した」体罰

19万3780件。令和元(2019)年度に全国215カ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数だ。その数が年々増加する中、深刻な虐待事件も起こっている。2018年3月には東京都目黒区で当時5歳の女児が、19年1月には千葉県野田市で当時10歳の女児が、それぞれ家庭内で虐待を受けて死亡する事件が発生した。

こうした事態を受け、政府は児童虐待防止対策を抜本的に強化することを決定。19年には「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」(以下、改正法)が成立し、20年4月1日から施行された。

改正法には市町村および児童相談所の体制強化、児童相談所の設置促進、関係機関の連携強化などが盛り込まれているが、中でも注目は親権者などによる体罰の禁止が法定化されたこと。つまり、「しつけと称した体罰を行ってはいけない」ということが、法律に明記されたのだ。

この改正法の施行から1年が経過し、体罰などに対する大人の意識はどう変化したのか。子ども支援専門の国際組織である公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが体罰等に関する意識・実態調査を行った。

今年1月、全国の20歳以上の男女2万人を対象にアンケートで行われた今回の調査。そこで明らかになったのは、体罰に対する大人の意識だ。「しつけのために、子どもに体罰をすることに対してどのように考えますか」という質問に対し、最も多かった答えが「決してすべきではない」で58.8%に上った。

実は、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは法改正前の17年にも同様の調査を行っている。前回の調査でも「決してすべきではない」が最も多かったが、その割合は43.3%。およそ6割が体罰を容認しているとも捉えられる結果は、当時注目を集めた。

それから4年後、法改正を挟んだ今回の調査では、しつけのための体罰を「決してすべきではない」という人が15.5ポイント増えたことになる。

さらに、今回の調査では、13.3%の人がこの1年間で「体罰の容認」から「容認しない」へと意識が変化したこともわかった。その理由として「体罰等が子どもに与える影響を知ったから」(56.1%)、「虐待等の痛ましいニュースを見聞きしたから」(52.7%)などが挙げられている。

3割の親がやってしまっている「お尻をたたくこと」

法改正などを経て、今では約6割の人が「いけないこと」と理解している体罰。しかし、その意識には矛盾点も見える。

今回の調査では、体罰の具体的な内容に関する質問もあった。「こぶしで殴る」については93.2%が「決してすべきではない」と答えたのに対し、「お尻をたたく」のを「決してすべきではない」と答えたのは48.7%だった。「他に手段がないと思った時のみすべきである」(37.4%)を加えると、約半数の人が「すべきである」と考えていることが見て取れる。

実は、今回の調査では、2万人への意識調査に加えて、子育て中の1000人を対象とした実態調査も行い、過去3カ月にしつけのために子どもにした行為についても聞いている。それによると、「こぶしで殴る」は95.1%が「全くなかった」と答えているが、「お尻をたたく」では「全くなかった」と答えた人が70.8%で、約3割の人が「過去3ヶ月にしつけのために1回以上、子どものお尻をたたいたことがある」と答えたのだ。

体罰はいけないことだと理解しながら、「お尻をたたく」ことは容認し、実際に行われている。その理由について、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは「今回の調査ではその理由までは確認できていないが、お尻をたたくことも体罰の一つだということが理解されていないのではないか」と話している。

心理的虐待も、子どもの心身を傷つけ健康な成長を阻害するもので、許されるものではない

1000人を対象にした実態調査では、子育てに関する状況と体罰などの実態との関係についても調査。「子どもの言動に対してイライラする」「孤独を感じる」「育児、家事、仕事の両立が難しいと感じる」「家に引きこもり、子どもを連れての外出が難しい」など、日常の子育てに困難がある人は、過去に子どもをたたいたことがある頻度が高いことも明らかになった。

子どもをたたいてしまうのは、親自身の育った環境と必ずしも関係があるわけではないようだ。子どもの頃にたたかれた経験がまったくない人でも、自身の子どもを1回以上たたいた経験があると回答している。

たたいたり、怒鳴ったりせずに子育てをしたい。多くの親はそう思っているだろう。今回の調査でも、実際にそうしている人は46.4%いた。一方で、「そうしたいが実践は難しい」と答えた人が30.9%、「たたいたり怒鳴ったりすることはあるが、しない方法があれば知りたい」と答えた人が16.7%いるのが実情だ。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、回答者の約96%は「子どもと過ごす時間が増えた」「自宅にいる時間が長くなった、外に出る機会が減った」など、何らかの変化があったと答えている。この結果から、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは、「コロナ禍で、日常の子育ての困難さがより増している」とみている。

体罰は、身体への苦痛に限ったものではない

今回の調査では、子どもたちにもアンケート調査が行われた。大人と子どもそれぞれに、「子どもの権利について知っているか」を尋ねたところ、大人のほうが知っている人が多かったが、その内容について知っている人は子どものほうが多かった。

さらに、「子どもの意見を聴き、子どもと一緒に判断すべき」と考える大人は、体罰を容認しない割合が高いことも明らかになっている。その一方で、なんらかの体罰等を受けた経験があると答えた子どもは38.7%いた。

子どもを傷つける行為は、身体に苦痛を与える体罰だけではない。厚生労働省は児童虐待に該当するものとして、「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4つを挙げている。令和元年(2019年)度に児童相談所に寄せられた虐待相談の内訳を見てみると、19万3780件のうち、最も多いのは心理的虐待の10万9118件で56.3%を占めている。子どもの心身を傷つける行為、成長を阻害する行為は虐待であることを大人は意識する必要があるといえるだろう。

今回の調査結果を受けて、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは以下の4つの提言をまとめて発表した。

① 体罰等に関する調査を国レベルかつ継続的に実施し、子どもに対しても実施すること
② 子どもに対する体罰等を容認しない社会をつくるために、効果的な啓発活動を推進すること
③ 子ども・子育て世代への支援策を拡充し、子育てに関連する公的予算を増幅すること
④ 子どもの権利を、大人と子ども自身へ啓発、普及、教育していくこと

虐待を受けずに育つことは、子どもの権利だ。子どもにも基本的人権があることを広く知らしめ、大人が子どもの意見によく耳を傾けること。そのためには、子ども自身はもちろんのこと、子育て世代をしっかりと支えていく仕組みと施策が必要だ。コロナ禍で日常や社会が大きく変化する時期だからこそ、意識的な取り組みが必要となるだろう。

(写真:iStock)