東京港区「デジタル教科書」クラウド利用の実際 紙かデジタルか、二者択一にならない深いワケ

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GIGAスクール構想による「1人1台端末」の導入で、今後普及が期待されているのがデジタル教科書だ。文部科学省(以下、文科省)では2024年、つまりこれから3年後に本格導入することを検討している。こうした中、いち早くデジタル教科書の導入を開始したのが東京・港区だ。今年3月から一部の学校で試験導入し、4月から区内の小中学校全校でデジタル教科書を使った授業を始めている。試験導入期間、そして本格導入に至るまでどのような課題があり、どう解決していったのか。また、これからどのような対応が必要となってくるのか。これまでICT化を主導してきた港区教育委員会 指導主事の下橋良平氏と、港区立御田小学校校長の濵尾敏恵氏に話を伺った。

国語の授業が始まると、子どもたちは先生に促され、すぐにiPadを開いた。それぞれが慣れた手つきでIDとパスワードを打ち込んでいく。国語のデジタル教科書が立ち上がると、先生が課題を出す。子どもたちは画面上で漢字を指でなぞりながら、書き取りの練習問題をどんどんこなしていく。先生のiPadでは児童全体の進捗状況が把握できるようになっている。挙手しなくても後れている子どもの所には先生が近づき、アドバイスを行う。

国語と算数のクラウド版デジタル教科書を3月に試験導入

午前中の3時限目。2年生の教室を訪れると、これまで見てきた授業とはまったく異なる景色が広がっていた。先生が板書することはほとんどない。子どもたちは先生の声かけに従って、iPadの画面を見ながら、自分で学習していく。ちょっとわからないことがあると子どもたち同士で相談し合っている。紙の教科書よりも、子どもたちがより能動的に授業を受けているように見えた。これが新たな授業スタイルなのか――と。

東京・港区立御田小学校の小2の国語の授業。担任の先生はベテランの油史枝(あぶら・ふみえ)先生だ

東京の港区立御田小学校では、2021年3月から国語と算数のクラウド版のデジタル教科書を試験導入した。全校生徒は425人。導入に当たっては当初、先生たちの間で戸惑う向きも少なくなかったが、あくまで学習効果を上げるためのツールであることを強調したと同校校長の濵尾敏恵氏は語る。

「子どもたちも、最初は物珍しさで楽しむけど、そのうち授業に飽きてくる。そこから本腰を入れるべきだと先生たちには話しました。しかし、実際には子どもたちのほうがタブレットに慣れていて、想定よりも早く狙いに沿った学習ができるようになっています」

港区立御田小学校 校長 濵尾敏恵(はまお・としえ)

授業では、先生の板書や子どもがノートに板書を写す機会が減る一方で、タブレットを使いながら、子ども同士で話し合い、理解を深めていく機会が増えたという。

「先生たちは、自分に視線が集まらなくなって寂しいと言っています(笑)。でも、子どもたちはスポンジのように吸収が本当に早いですね。タブレットのやり取りについてもこちらが思っている以上にルールを守ってやっています。個人情報や生活指導上の問題など、こちらがあまり恐れずに、とにかく実践していくことが大事だと考えています」

クラウド版のデジタル教科書を選択した理由

文科省が進めるGIGAスクール構想。1人1台端末を導入する第1フェーズの施策は、21年3月末をもってほとんどの自治体で完了した。すでに端末の利活用が進んでいるが、デジタル教科書の使用条件が整ったことから今後本格普及が期待されている。文科省では24年から全国の学校で導入することを検討しており、同構想は新たなフェーズに入ったといえる。

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