苦しむ子どもを救う「公的第三者機関」の設置が日本で遅れている理由 川西市「子どもの人権オンブズパーソン」に聞く
「日本には『子どもは大人が導くもの』『子どもに権利や自由を与えるものではない』と考える文化が根強くあります。1990年代に学校現場で子どもの権利条約が注目された時期がありましたが、立ち消えてしまったのもこの文化の影響だと思います。いまだに私たちも調整を図る中で、『子どもの最善の利益』を学校や家庭に共有してもらう難しさを感じます。一方、児童福祉法改正で『児童の権利』という言葉が条文に入ったことは、国もここに課題感を持っていると明言しているに等しい。今後は教員養成課程でも子どもの権利を学ぶようにするなど、いかに浸透させるかが重要になります」(堀家氏)
オンブズパーソンを務める弁護士の三木憲明氏は「制度的にも日本の子どもの権利に関する取り組みは遅れている」と話す。日本は94年の子どもの権利条約批准以来、国連の子どもの権利委員会から、数年ごとに勧告を受けている。子どもの権利のための独立した公的第三者機関の設置を促されているものの、いまだ国レベルのものはつくられていない。

弁護士。専門分野は子どもの権利に関わる領域や学校問題で、スクールロイヤーも務める。川西市のオンブズパーソンに就任して4年目
(写真:川西市子どもの人権オンブズパーソン事務局提供)
足元ではこども家庭庁の創設に合わせて第三者機関の設置が議論されていたが、22年3月、「こども基本法案」の要綱には盛り込まれなかった。これを受け、三木氏は次のように語る。
「国際社会でも人権対応に関してプレゼンスを発揮しなければいけない状況にもかかわらず、非常に残念。こども家庭庁の創設に向け、公的第三者機関を国家的プロジェクトとして位置づけるべきだと思います。全国的に第三者機関を設置する自治体では相談員の待遇の向上が望まれており、自治体に予算をつけることも必要です。弁護士会としても、制度面の充実に向けて役割を果たさなければいけないと考えています」(三木氏)

(写真:川西市子どもの人権オンブズパーソン事務局提供)
川西市にも課題はある。救済を担うオンブズパーソン機関に関する条例があるだけなので、「本来なら実定法上の根拠となる『子どもの権利総合条例』を作る必要がある」(三木氏)という。
「条例と機関がセットになっていない自治体はほかにもあり、そもそも1700以上の自治体がある中、三十数カ所しか公的第三者機関がないのも問題です。自治体と国、両輪で取り組んでいかなければいけないと思います」と、堀家氏も課題を指摘する。
今後、子どもの権利の保障はどのような形で実現されていくのか。引き続き、国の動きを注視したい。
(文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:tropchou19981027/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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