理想掲げた岩波の苦い現実 緊密な労使関係が改革阻む 作家 中野 慶氏に聞く

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なかの・けい 本名・大塚茂樹。早稲田大学第一文学部卒業、立教大学大学院中退。岩波書店編集部で単行本、雑誌『世界』、岩波現代文庫などを担当。労働組合で執行委員などを経験。2014年に早期退職して著述業へ。本名での主著に『原爆にも部落差別にも負けなかった人びと』。(撮影:梅谷秀司)
小説 岩波書店取材日記
小説 岩波書店取材日記(中野 慶著/かもがわ出版/2200円/232ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
大学で史学と労働経済学を学んだ芳岡美春は、2014年にコンサルタント会社に就職した。1カ月間の研修先に決まったのは、あの岩波書店。美春は右翼っぽい先輩と共に、労働組合委員長経験者で教養あふれる切れ者専務をガイドに、卓越編集者、労組の大黒柱など関係者へのヒアリングを続けていく。

新自由主義と対極の職場 社会の変化に対応できるか

──古巣の問題点を小説仕立てで描出する格好になっています。

あの会社の温情主義に若き日は恩恵を受けました。苦学生を支援する夜間受付という仕事を2年間やり、入社したのは1987年です。全社員の顔と名前がわかる新入社員なんていませんし、夜間受付経験者で編集者になったのは私一人のはずです。また、戦後の労働組合への関心が強く、岩波労組でも執行委員を務めたので労組内の事情にも通じていたほうです。

その意味で独自の視点から職場を眺められたので、憲法や象徴天皇制、労組などの戦後レジームも意識して、岩波の特質を明らかにしたいと考えていました。

労組の初代委員長は『君たちはどう生きるか』で有名な吉野源三郎さんです。彼の著作のタイトル、「人間を信じる」というスタンスは社内の空気と不可分です。その空気は、実在の人物も意識したうえで、職場の群像を描く小説としたほうが伝わると思ったのです。

──労組の存在感に驚きます。大きすぎて労使関係が会社の弱点に。

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