解かれた写真の「封印」 読者がそれぞれの答えを
──これまで対象としてきたテーマとは違うと感じました。
15年ほど前、文壇バーのマダムについて書いた最初の作品『おそめ』を発表した直後に、ある出版社の方がユージンの写真集『MINAMATA』をプレゼントしてくれました。そして「彼について書ける執筆者、それも女性の書き手を探していた」と言うのです。
深い陰影が差した写真はどれも宗教画のようで、引き込まれました。なぜ、こんな写真が撮れたのか。撮った人はどういう人なのか。とても気になりました。彼と離婚した元妻アイリーンさんが京都にお住まいと聞き、会いに行ったのです。そのとき、アイリーンさんにも頼まれました。ぜひ、書いてほしいと。
──発端はかなり前なのですね。
自信がありませんでした。当時はまだ1作しか書けておらず、テーマは芸者さんの半生で水俣病とは懸け離れている。水俣病の文献や資料は多すぎるくらいあり、書き手の主張も強い。全体を把握したうえで書き切る自信がありませんでした。それで、断ったというか、逃げたのです。
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