一度は逃げ出したテーマ 水俣で警告発した写真家 ノンフィクション作家 石井妙子氏に聞く

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いしい・たえこ 1969年生まれ。白百合女子大学国文科卒業。同大学院修士課程修了。『おそめ 伝説の銀座マダムの数奇にして華麗な半 生』でノンフィクション作家デビュー。『原節子の真実』で新潮ドキュメント賞受賞、『女帝 小池百合子』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。(撮影:佐々木 仁)
魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣
魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣(石井妙子著/文芸春秋/359ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
9月、映画『MINAMATA─ミナマタ─』が公開された。製作、主演を務めるジョニー・デップが扮するのは、水俣病患者たちの苦悩を撮った写真家ユージン・スミス。そのユージンの生涯と元妻アイリーン・美緒子・スミスの半生を追ったノンフィクションは、なぜ今書かれたのか。

解かれた写真の「封印」 読者がそれぞれの答えを

──これまで対象としてきたテーマとは違うと感じました。

15年ほど前、文壇バーのマダムについて書いた最初の作品『おそめ』を発表した直後に、ある出版社の方がユージンの写真集『MINAMATA』をプレゼントしてくれました。そして「彼について書ける執筆者、それも女性の書き手を探していた」と言うのです。

深い陰影が差した写真はどれも宗教画のようで、引き込まれました。なぜ、こんな写真が撮れたのか。撮った人はどういう人なのか。とても気になりました。彼と離婚した元妻アイリーンさんが京都にお住まいと聞き、会いに行ったのです。そのとき、アイリーンさんにも頼まれました。ぜひ、書いてほしいと。

──発端はかなり前なのですね。

自信がありませんでした。当時はまだ1作しか書けておらず、テーマは芸者さんの半生で水俣病とは懸け離れている。水俣病の文献や資料は多すぎるくらいあり、書き手の主張も強い。全体を把握したうえで書き切る自信がありませんでした。それで、断ったというか、逃げたのです。

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