数十の職に就き、結婚歴は約50 明治に現れた“突然変異体" 文筆家 平山亜佐子氏に聞く

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ひらやま・あさこ 大学図書館に勤務しつつ、デザイナー、挿話収集家としても活動。戦前文化、教科書に載らない女性の調査を得意とする。一時期、『純粋個人雑誌 趣味と実益』を発行。著書に『戦前尖端語辞典』『明治大正昭和 不良少女伝』『20世紀破天荒セレブ』など。(撮影:尾形文繁)
問題の女 本荘幽蘭伝
問題の女 本荘幽蘭伝(平山亜佐子 著/平凡社/3080円/344ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
「嗚呼(ああ)、女子! 汝(なんじ)は産児に対する自覚以外すべてにおいて、敗者たるよ。活発なる男子は英雄豪傑と崇拝され、覇気ある婦人はお転婆と罵(ののし)られ、筆に雄なる男子は天才、詩人と挙げられ、文筆に志ある女は生意気と貶(おとし)められる」(1911年『新公論』所収「私の見た男子」)。書いたのは、新聞記者、女優、講談師など数十の職に就き、50人近い夫と120人以上の交際相手を持った「問題の断髪美人」、本荘幽蘭である。

家庭に入らず自由に生き、先駆的ジェンダー論も残す

──本書で初めて知りましたが、当時は超有名人だったのですね。

一時期は読売、報知など多くの新聞が幽蘭の動向を紙面で伝え、女優の松井須磨子やオペラ歌手の三浦環などとともに演劇欄、雑報欄をにぎわせていました。「幽蘭ウォッチャー」の医師、高田義一郎は、幽蘭こそモダンガールの本家本元と言っています。

女性は家庭を守るのが当たり前の時代に、女優をはじめさまざまな職業に就く。美貌で男性関係も派手。関係した男性、関係を持ちたい男性の名を記した「錦蘭帳」という手帳があったそうです。

──新聞はひどい書きようです。

とにかく多面的な人で、調べれば調べるほどわからなくなるというタイプです。現代から見てもそうですから、明治の人にとって幽蘭は“突然変異体(ミュータント)”に等しく、理解するのが難しかったのでしょう、貼られたレッテルは「妖婦」「狂女」「淪落(りんらく)の女」など名誉毀損レベルです。書かれた幽蘭は人目を避けるどころか、「問題の断髪美人」と自称して、新聞社にネタを売り込みに行く。勇気があるというよりも無謀です。お金に頓着せず着る物も気にしない、一種の豪傑。周囲の人もある程度豪快な人じゃないと関係が成り立ちません。

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