家庭に入らず自由に生き、先駆的ジェンダー論も残す
──本書で初めて知りましたが、当時は超有名人だったのですね。
一時期は読売、報知など多くの新聞が幽蘭の動向を紙面で伝え、女優の松井須磨子やオペラ歌手の三浦環などとともに演劇欄、雑報欄をにぎわせていました。「幽蘭ウォッチャー」の医師、高田義一郎は、幽蘭こそモダンガールの本家本元と言っています。
女性は家庭を守るのが当たり前の時代に、女優をはじめさまざまな職業に就く。美貌で男性関係も派手。関係した男性、関係を持ちたい男性の名を記した「錦蘭帳」という手帳があったそうです。
──新聞はひどい書きようです。
とにかく多面的な人で、調べれば調べるほどわからなくなるというタイプです。現代から見てもそうですから、明治の人にとって幽蘭は“突然変異体(ミュータント)”に等しく、理解するのが難しかったのでしょう、貼られたレッテルは「妖婦」「狂女」「淪落(りんらく)の女」など名誉毀損レベルです。書かれた幽蘭は人目を避けるどころか、「問題の断髪美人」と自称して、新聞社にネタを売り込みに行く。勇気があるというよりも無謀です。お金に頓着せず着る物も気にしない、一種の豪傑。周囲の人もある程度豪快な人じゃないと関係が成り立ちません。
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