財政赤字をめぐり米国ではマクロ経済政策の再検討が進んでいる。ドナルド・トランプ大統領の減税、MMT(現代金融理論)と民主党のグリーンニューディールなど、半ば根拠のない楽観に支えられた動きには日本でも関心が集まる。だが、主流派マクロ経済学の大物からも、低金利の時代における財政赤字の再解釈が唱えられている。
主流派の大物とは、米マサチューセッツ工科大学名誉教授でピーターソン国際経済研究所(PIIE)の上級研究員でもあるオリヴィエ・ブランシャールだ。同氏は世界金融危機の最中から7年間、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めた人物である。
そのブランシャールが1月に全米経済学会において、波紋を呼ぶ講演をした。米国を例に取り、低金利の時代には財政赤字や債務蓄積のコストが小さいと結論づけた。
ブランシャールは「財政」と「厚生」の2つの観点から財政赤字のコストを論じる。
まず財政面から説明しよう。政府が国債を発行し、借り換えを続ければ債務残高自体は増加する。しかし、経済成長率(g)が国債金利(r)を上回る場合、増税や歳出削減を行わなくともGDP(国内総生産)比での債務残高は低下していく。米国では1950年代以来、一般的に金利は経済成長率を下回り、当面それが継続すると予想されている。つまり、「g>r」によって、財政面では財政赤字のコストが存在しない可能性が高い。
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