難しい不易流行の均衡 重み増す13年の共同声明
評者 一橋大学大学院経済学研究科教授 齊藤 誠
本書に接して「不易流行」という蕉風俳諧の理念が思い出された。不変の価値(不易)と新しい価値(流行)の両方を大切にする姿勢を意味する。白川は、第1部の「キャリア形成期」で「不易」を培い、第2部の「総裁時代」に「流行」に取り組んだ。
まさに中央銀行実務の不易である金融調節について、当初はよく理解できず、日常業務から学んだと告白している。
ただ、流行は形成期にも静かに忍び寄っていた。当座預金量拡大の政策効果については、今でも厳密な理論的裏付けがあるわけではない。それでは2001年3月の量的緩和政策は、どのように日銀内で正当化されたのか。
白川は「量についてのある種の幻想を利用する」という山口泰副総裁(当時)の発言を引くが、その時の政策判断を批判してはいない。現在の金融緩和の混乱は、当初から不易を逸脱し流行を利用した日銀にも責任があると思う。
08年4月に総裁に就任した白川を待ち受けていた流行は、前年から進行していた世界金融危機への対応であった。日銀は政策リソースを積極的に投入してきた。米国側から2日前にリーマンブラザーズ破綻の方針を知らされた白川は、破綻を容認した米国当局の消極姿勢に失望した。
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