社会的適応度に照らして諸商品を明快に分析
評者 北海道大学大学院経済学研究院教授 橋本 努
この安っぽい装丁に騙されてはいけない。本書は過去30年の消費論研究で、最高の収穫ではないだろうか。ヴェブレンやボードリヤールに並ぶ理論的達成といってもよいかもしれない。
確かに出だしの二つの章を読むと、最近の消費論の動向を軽快に語った一般書に過ぎないようにみえる。だが第4章では、ヴェブレンのいう「顕示的消費」との対比で「自己刺激的消費」の特徴が周到な考察とともに示される。別の研究成果を参照しているとはいえ、すぐれた考察だ。
たとえば2007年に発売されたiPodの第6世代Classic。音楽なら5万曲、動画なら200時間分を収められるようになった。その洗練されたデザインを見せびらかしたくなるが、用途の中心は消費者の自己愛を刺激するもの。音楽を聴くことができるのは本人のみだ。iPodが生み出すのは夢想の世界で、ユーザーたちの独りよがりの快楽追求を刺激する。ヴェブレンが論じたような、社交的で名声に貪欲な消費行動とは異なるタイプの行動だ。
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