こにし・ひでき●早稲田大学政治経済学術院教授。1962年生まれ。東京大学経済学部卒業。東大大学院中退。博士(経済学)。成蹊大学、東京都立大学、学習院大学などを経る。
アベノミクスを政治制約、 理論の視点から洗い直す
評者 慶応義塾大学経済学部教授 土居丈朗
2012年末に第2次安倍内閣が発足してから3年9カ月がたった。アベノミクスの評価は、今のところ毀誉褒貶相半ばである。本書は、アベノミクスに代表される最近の日本政府の経済・財政運営や金融政策などについて、その理論的整合性と政治的制約要因を政治経済学の視点から論じている点で、他に類を見ない好著である。
著者は、経済理論に基づきながら、アベノミクスの矛盾点を鋭く突く。「安倍内閣は株価最大化内閣と呼べるだろう」と喝破する。政権は株価に表れる経済現象には関心を寄せるが、関心を寄せない政策課題には、一部に弊害が及んでいる。
安倍内閣はデフレ脱却を最優先し、消費税増税を2度も先送りした。しかし著者たちは、そのことが結局デフレ脱却を遅らせ、消費税増税による政治的な利点をとりそこねたと評する。
デフレ脱却に向けて大量に積み上がった日本銀行当座預金を、今後どうやって解消していくかが、デフレ脱却のために克服しなければならない課題である。これを解消するには、日銀は新たな通貨発行を抑制し当座預金が市中銀行に消化されていくのを待つか、保有する国債を売却しその代金を当座預金から回収するかしかない。いずれにしても、近い将来、通貨発行益を増やせなくなるのは確実だ。そうなると、本書で根拠とする経済学の新しい理論「物価水準の財政理論」からすれば、将来の十分な財源調達の当てもなく債務を積み増し、返済を先延ばしする財政運営がデフレを助長した原因であり、将来的にはインフレの加速と長期国債の暴落が同時に発生するリスクを高めている、との結論が導かれる。
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