今年2月24日。トヨタ自動車の豊田章男社長は、トヨタグループの鉄鋼メーカー、愛知製鋼の刈谷工場を訪れた。敷地内にある「創業の地」をその目で確かめるためだ。
豊田社長の祖父、豊田喜一郎は1933年、豊田自動織機製作所(現在の豊田自動織機)にトヨタの前身である自動車部を作った。3年後にはトヨタ初の量産乗用車として知られるAA型乗用車が完成する。その前年に造られたのがA1型試作乗用車であり、これを組み立てた小屋が刈谷工場に残されている。
始祖・豊田佐吉が発明した織機で大成功を収めたとはいえ、当時の豊田グループは地方の新興財閥にすぎなかった。自動車事業に進出するだけの資金力も技術力もなく、自動車に必要な鋼から開発する必要があった。「良きクルマは良きハガネから」という喜一郎の考えで作られた製鉄部が愛知製鋼の源流である。
一般に、自動車部発祥の地は豊田自動織機内にあると考えられており、それは確かに間違いではない。そのため試作車が組み立てられた小屋の存在は、トヨタやグループ会社はおろか、愛知製鋼内でもほとんど知られないまま、長く倉庫として使われてきた。2012年にトヨタの豊田章一郎名誉会長が訪れることになった際、慌てて片付けが行われたほどだ。章一郎名誉会長はここで走り回った幼い日の思い出を感慨深げに語ったという。
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