新たな知恵の獲得を促した政策対応の変転
評者 福山大学経済学部教授 中沢孝夫
日本経済はなぜ20年もの日々を「失う」ことになったのか。そしてやっとそこから脱しつつあることの意味を明瞭に描いた本である。
かねてから景気対策としての公共投資は、「呼び水効果」が薄れ、利用されない道路建設など、社会的な便益も低かった。1990年代の後半から問われていたのは金融政策変更による「所得と雇用の安定化」であった。
2012年暮れの安倍政権の誕生は、日本の有権者が経済格差の是正や財政再建よりも、まずは景気回復と経済成長を望んでいることを示していた。
それは本書が指摘するように、「社会において実現されるべき政策目標とは何か。仮に経済成長と分配がトレードオフの関係にあるとすれば、その二つの目標のどちらの実現をより強く望むか」といった価値判断によりアベノミクスが選ばれたといってよい。道徳的に正しいか正しくないかの問題ではない。
著者は「財政政策積極主義と金融政策消極主義によって特徴づけられる初期のケインズ主義」を「ケインズ主義1.」とし、70年から10年までの40年の経過をもつ「赤字財政主義と金融政策積極主義の統合」を果たした、現代のマクロ経済学を「ケインズ主義2.」と定義している。
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