4月から「18歳成人」、約140年ぶりの変化にピンとこない学校の盲点 18歳ターゲットの悪質詐欺が横行するおそれも

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ただ、成人していない生徒としては不平等感が募るかもしれません。これまでも18歳で可能となる運転免許取得や選挙での投票の際に、クラス内で不平等感が生じる問題がありましたが、そういった機会は増えるでしょう。

自由になる半面、責任も増えます。例えば、自分で締結した契約は未成年を理由に取り消すことができなくなります。未成年者が成年年齢に達した友人の名義を借りていかがわしい契約をするなどのトラブルも十分考えられるので、契約の重みについてきちんと理解しておかなければいけません。

また、私が今心配しているのは、悪質な詐欺。成年になると被告としても扱われるので、注意が必要です。これまでも身に覚えのない出会い系サイトの利用料などの支払いを求める「架空料金請求詐欺」はありましたが、最近は「督促手続(※1)」や「少額訴訟手続(※2)」といった裁判所の手続きを悪用するケースが増えています。

※1 簡易裁判所の裁判所書記官が、簡易な手続きで金銭の支払いを命じ、判決の代わりに強制執行を可能とする処分をする手続き
※2 60万円以下の金銭の支払いを求める場合に、簡易裁判所で原則として1回の期日で審理を終え、即日判決を言い渡す民事訴訟

その場合、放置すると、何もしていないのに強制執行や敗訴といった不利益を被る危険があります。裁判所から書類が届いた場合は、それが本当の通知か確認し、本物であれば異議申し立てをする必要があります。今後、そのような18歳をターゲットにした悪質な詐欺が横行する可能性もあるので、用心してほしいと思います。

社会全体で考える必要があると思うのは、例えば、事故を起こして損害賠償が発生したケース。未成年者の場合、不法行為で生じた損害と親権者(監督義務者)の監督義務違反との間に因果関係があるときに親権者が責任を負います。一方、成年者は本人が責任を取ることになるのですが、ほとんどの場合は資力がありません。それでは被害者が泣き寝入りすることになりかねません。将来的には被害者救済のため、賠償責任を負う者に親権者であった者も含むといった法解釈に変わる動きが出てくる可能性もあります。

大切なのは18歳成年の意味や重みを生徒に伝えること

──現実的な諸問題への視点を欠いたまま、成年年齢を引き下げてしまったような気がします。

海外とは学校のあり方や文化が異なりますし、日本で一律に18歳を成年とすることが合理的なのかという議論を、もっと重ねる必要があったのかもしれません。法律家には教育現場の実態へのまなざしが不足していると思います。法律の画一性が、多様な能力と個性を扱う教育と相いれないことを理解すべきです。

とくに高校は小中学校とは比較にならないほど、学校によって個人差が大きい。主体性や責任感が育まれ、精神的にも成熟した生徒の多い学校であれば、学業とのバランスを考えて自分の行動を決めていけると思います。しかし、規範意識に乏しく精神的に未熟で、親の同意なく何でも勝手にやれると考えるような生徒を抱える学校の先生は、「何かしでかすのでは」と気が気ではないでしょう。

──学校は18歳成年に対して、どう向き合っていけばよいのでしょうか。

2つの方向性があります。1つは18歳成年について、自ら考える教育の機会をつくること。

例えば、契約などの消費者教育は公共、保健体育、家庭科の授業で行っていますが、ここは活用できます。あまり時間を取れないのが現状ですが、各教科の先生たちで内容が重複しないよう調整し、カリキュラムマネジメントをしっかり行って、いろいろな切り口から成年者になることの意味を伝えていってほしいと思います。

ただ、教科書も副教材も、消費者トラブルの例を挙げて、被害に遭わないようにとリスクを警告するものが多いのが難点。生徒が契約することを過度に避けてしまう可能性もあり、そうなるとせっかく18歳に成年年齢を引き下げられた意味がなくなってしまい、本末転倒です。大切なのは、賢い消費者を育てていく視点です。

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