新学習指導要領の「3観点」正しい評価3つの方法 「明確」にすべき点を整理すればメリット多し
2つ目は子どもを多面的に見ることだ。子どもが書くこと、話すこと、つぶやくこと、振る舞い、表情……。どれか1つだけで判断するのではなく、子どもをよく観察して複合的に考えることで、曖昧なことの評価にも信頼性が増す。
「望ましくない評価の例として、子どもの忘れ物の多さや挙手の回数など、ふさわしくない事柄でのみ判断することがありました。でも仮に何度か忘れ物をしたとしても、その子どもがいろいろな解き方を自分で調べ、比較し、自ら前向きに考えることができているとしたらどうでしょう。忘れ物と比べて、どちらが学びの本質として評価されるべきかは歴然としています」
そして3つ目は、教員自身が評価規準を明確に言語化することだ。これについて田村氏は、サポート資料の活用を勧める。
「教員の主観に偏りすぎず、妥当性を保つためには、第三者の声が有効です。国や教科書会社などが多くの資料を発行しているので参考になるでしょうし、学校内や地域で勉強会を行ってもいいでしょう。見えにくいことの評価も、すでに感覚で実践できている教員は多いと思います。今回の改訂はそうした曖昧さをクリアにするきっかけで、前向きに取り組むチャンスだと捉えるといいと思います。各教員の中で評価規準がシャープに言語化されれば、教員同士でのノウハウの共有にも生きてくると思います」
さらに田村氏が強調するのは、明確化すべきところをしっかり押さえ、その効果を自覚することの大切さだ。例えば成績をつけるための総括的評価はポイントを押さえて行われるべきで、曖昧にするわけにはいかない。だが日常のすべてを明確化して評定に結び付けたり、記録を取ったりする必要はないという。
「評定はどうしても子どもを輪切りにランキングするものです。とりわけ中学校や高校はその出口に受験があるので、その責任が大きく、教育の比重が評定に偏る傾向がありました。しかし新しい3観点によって、これまで評定には反映しきれなかったこともフォローしてあげられるようになる。曖昧な規準の積み重ねでこそ、確実に評価できることがあるはず。それによってモチベーションが上がる子どもも多いと思います」
田村氏はまた、「評価規準がきちんと言語化されると、授業のデザインも変わる」と語る。「入り口と出口が整理された」という言葉どおり、3観点の整備は、教員が目指すべきゴールを評定以外でもはっきりと示した。ゴールが明確であればあるほど、そこへ向かうための授業づくりに反映されてくるのは当然のことだ。
「子どもたちのためにどんな授業をすればいいか、教員はつねに知恵を絞ってきました。つまり3観点での見直しは新規の厄介な仕事などではなく、これまでも取り組んできたことを、もっと効率的に進めるものだといえるのです。ゴールが見えやすくなれば、授業づくりはもっと楽しく自由になる。よりクリエーティブな教育活動につながるいい機会だと思います」

國學院大學 人間開発学部 初等教育学科 教授
新潟大学教育学部卒業。専門は教科教育学、教育方法学、カリキュラム論。新潟県上越市立大手町小学校教諭、上越教育大学附属小学校教諭、新潟県柏崎市教育委員会指導主事、文部科学省・国立教育政策研究所教科調査官、文部科学省初等中等教育局視学官を歴任。2017年から現職
「クリアな言葉化」で、子どもも大人も考えを整理しよう
すべての教科の評価規準が統一されたことで、注意すべき点も生じている。例えば美術や音楽などの実技教科は評価規準の明確化が難しい。こうした教科は一方的に評価するのではなく、「子ども自身による振り返り」を活用することが有効だという。