社会の変化と、問われる学校のあり方

8年連続で増え続けている不登校。なぜ増え続けているのだろうか。NPOカタリバの代表理事である今村久美さんは次のように語る。

「原因はわかりません。ただ、学校での教え方や学び方が、社会の大きな変化や時代と合わなくなってきている中で、親子ともに『学校に引きずってでも連れて行くべき』と思わなくなったことは、ひとつの理由でしょう。これは、いい意味でもあると思います。病気を抱えていたり、家庭環境がさまざまだったり、昔から課題と言えるものはありました。しかし、今はそれらの課題に加えて、社会の変化と、学校の教え方にギャップが生まれてきている。そうした中で、子どもに苦しい思いをさせてまで学校に通わせなくてもいいのではないか。そんな思いを抱く親が増えている。不登校が増えているのは、教員の指導方法なども含め、これまでの学校のあり方が問われる時期に来ている表れだと考えています」

今、日本を含め、世界のありようが大きく変化している一方で、多くの公立の学校では現在も児童生徒全員に同じ内容を同じペースで教え続けている。だが、それが限界に来ているのではないか。もちろん一定の割合の子どもたちにとっては現状維持は有効かもしれない。だが、極端に成績がよい子やよくない子、集団行動が苦手な子どもなど、さまざまな特性を持った子どもたちの中には、現状の学校システムの中で苦しい思いをしていることも多い。そう今村さんは言う。

今後も増加が予想される不登校。早急な対策が必要だ、と語る今村氏
(写真:カタリバ提供)

「その意味では、不登校自体が問題ではないのです。義務教育の中で、何らかの理由で学校に行けない子どもたちがいる。それは事実です。学校を回避したとき、別の場所で学びを得られる機会がないこと、それが問題なのではないかと思います。例えばフリースクールに通おうと思っても、高額であることから、金銭的な理由で通うことができない。経済的な余裕がない家庭の子どもほど、泣いてでも学校に行かなければならない。それは、それ以外に学びの機会がないという現実を指し示していると思います」

「SNSいじめ」が加速させる不登校

そこにまた大きな問題として加わるのが、子どもたちのスマホ利用が広がったことだ。

「SNS上での仲間外れや、言葉による暴力などで苦しんでいる子どもは、学校での同調圧力を家庭にまで持ち帰らなければいけない事態となっています。これは大変憂慮すべきことです。昔なら、いじめられても家庭に帰れば、自分の時間を持つことができ、心の平安があった。しかし今はSNSで始終緊張を強いられている。心理的安全性が低くなっているといえるでしょう。さらに、SNSは閉じられたコミュニティーなので、親も気づいて助けてあげることが難しい。私のような大人でも、ネットやSNSにおける人の書き振りで傷つくことがあるのですから、語彙力が育っていない子ども同士のやりとりにおいてはなおさらです。スマホなどのデジタル機器の普及は、教育にもいい影響を及ぼしている一方、子どもたち同士のコミュニケーションを難しくしているという一面も理解しておく必要があります」

だが、スマホやSNSは今後もなくならないだろうし、いじめもなくならないだろう。それでは、そのような中で苦しい思いをしている子どもたちを、どう支援すればいいのか。

「学校が合わなければ、別の選択肢がある。そのようなセカンドオプションにアクセスしやすい環境をつくることが重要です。公的支援がある自治体もありますが、ほとんどは家庭の経済力によって、選択できる支援や機会が変わってしまっている。義務教育が無料であるならば、何らかの原因で、そこから外れざるをえない子どもたちの教育もまた、無料でアクセスできるべきでしょう。戦後から脈々と続いている教育システムは、すぐには変えられないかもしれませんが、だからこそオルタナティブな機会や場所を設けることが重要だと考えます」

では、不登校の児童生徒の学習機会はどのように確保されているのだろうか。現状は、フリースクールなどを活用するケースが多いという。しかし地域によっては、そもそもフリースクールがない所もある。また、あったとしても利用する場合には高額の授業料がかかり、経済力のある家庭の子どもしか活用することができない場合も多い。不登校特例校など公的支援もあるにはあるが、不登校特例校は、まだ全国に17校しかない。教育支援センターもすべての自治体が設置しているわけではなく、まだまだニーズには足りず、対応するにも限界があるのが実情だ。

「私たちのところにも不登校の子どもを抱えたひとり親世帯や、貧困状態にある方が、多く相談にいらっしゃいます。中には、『自分が仕事に行っている間に、子どもが飛び降りてしまうのではないか』など、自死が不安であるという悩みも聞きます。同時に、家庭では給食もないため、お昼ご飯もつくらなければいけない。親がつねに子どもの近くにいなければ不安と思う人も多く、その結果、親も不定期の仕事に就かざるをえなくなる。そして、貧困に転落してしまうというケースも見られる。また、不登校特例校も、フリースクールも、教育支援センターもないような地域では、すべて家庭で対応しなければならなくなり、学校以外の公的支援にアクセスできなくなります。このまま公的な支援が不足したままでは、学びの保証は家庭や自治体に依存し、八方ふさがりで孤立してしまう子どもが増えていくでしょう」

不登校支援の肝となるのは、「保護者支援」

こうした状況に対応すべく、今村さんが主宰するNPOカタリバでも、もともとあった拠点型の教育支援のほか、新たな取り組みを始めている。その1つが、不登校の児童生徒を支援するオンラインのサポートルーム「room-K」だ。そのメリットは、オンラインなら支援する側も支援される側も、地域や場所を問わず、利用できることにある。その内容は次のようなものだ。まずはオンラインでコーディネーターが子どもの支援計画を家庭や学校と調整。その後、Gather(ギャザー)というデジタルツールを使い、学校のような仮想空間の中で個別につくられた時間割の下、子どもたちは授業を受ける。支援スタッフは子どもの状況を見ながら、伴走していくという形をとる。ボランティアで支援するスタッフは、在宅ワーカーを中心にさまざまな経験や知見を持った人々が協力している。「room-K」では、ほかにも保護者支援、保護者同士の交流の場を設けているという。

対面ではなく、仮想空間で交流することで、不登校の子どもも安心して参加できるのだという
(写真:カタリバ提供)

「不登校支援の肝となるのは、実は保護者支援だと考えています。カタリバでは、2週間に1回、オンラインの保護者会を開催しているのですが、多くの保護者は不登校となった自分の子どもを目の前にして、戸惑い、混乱し、どうしていいのかわからない状態となっている。そのうえ、地域によっては問題のある親という扱いをされ、周囲から孤立し、保護者自身が引きこもってしまうケースも出てきています。私たちの取り組みでは、子どもが不登校であることよりも、保護者を支援し、子どもたちの学びを止めないためにどうすればいいのか。そこを一緒に考えていくことを大事にしています」

ただ、今は多くの学校でもICT教育がスタートし、公的支援もアップデートできる局面にあるはずだ、と今村さんは苦言を呈する。

「私たちの不登校支援は現状、ホームスクーリングのツールを提供していることになります。しかし、本来は学校で不登校を生まないよう、未然防止として、一律の学び以外の対策も取れるのではと思います。例えば図書館など、教室とは別の場所でパソコンを使い、授業を受けることも可能でしょう。そうした選択肢を学校でもっと増やしていくこともできるのではないかと感じています」

すでにいくつかの自治体では、ICTを使った新たな不登校支援を始めている所もあるという。

「学校も、今後は何事も自前で行うという発想をなくしたほうがいいかもしれません。オンラインを使えば、人材のリソースを集めることも容易になります。先生たちが自前でやろうとすると負担が大きくなりがちです。例えば自治体によっては、校区ごとにスクールソーシャルワーカーを1人配置しています。しかし、校区の生徒数が1000人いれば、それを1人で担当することになり、現実的には丁寧に対応するのは無理があるでしょう。それがオンライン上のリソースを使うことで、より的確に対応することができるようになるのではと思います」

そう語る今村さんは、不登校の子どもの保護者にもこうアドバイスを送る。

「不登校は子どもが家庭の中で親としか話していない、という状況が生まれやすい。私もそうですが、親子で話すとつい感情的になってしまうことがあります。ですから、不登校の子どもには、できる限り家族以外の人と話せるような環境に触れさせることも大切になってきます。そのためにもオンラインという手段がある。親も子も1人で苦しまず、私たちのような外部のリソースも活用し、1人で抱え込まないでもらえればと思っています」

今村久美(いまむら・くみ)
1979年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。11年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム 理事。中央教育審議会 委員。経済産業省産業構造審議会 臨時委員。認定NPO法人カタリバ 代表理事。カタリバ(https://www.katariba.or.jp/
(写真:カタリバ提供)

(文:國貞文隆、注記のない写真:buritora / PIXTA)