第2に、教職員と教育委員会(あるいは私学であれば、教職員と学校法人)との間の信頼に溝ができます。
加えて、実態が見えなくなった状態で、教育委員会などは多少安心してカラ元気なわけですから、教職員の多くは「あ~、やっぱり学校で働き方を見直したり、改善したりするなんて、無理なんだ」「教職員数が増えない限り、何をやっても駄目だよね」と思って、職場では諦めムードが広がります。過少申告等の広がりは、現場の無力感につながりかねませんし、無力感が大きくなると虚偽申告も増えるという悪循環になってしまうでしょう。
何のための記録か、適切な補償や支援を受けられない可能性も
第3に、教職員の健康管理上、非常にまずい状態となります。何のために勤務実態をモニタリングしているかというと、それは、文部科学省や教育委員会が求めているからというよりは、教職員の健康、もっといえば、命を守るためです。先ほどの例え話のとおり、体重計がおかしくなっていたのでは、本人も状態や進捗を確認できなくなります。セルフケアがおろそかになります。
しかも、万が一、過重労働のために倒れてしまった、仕事が続けられなくなったというとき、過少申告した記録がベースとなりますから、適切な補償や支援を受けられなくなる可能性が出てきます。「あなたは体を壊して気の毒だけれども、それは仕事のせいじゃなくて、もともとの持病のせいか、不運だったのでしょう」ということにされてしまいます。
実際、教師の過労死などの事案を私は何十件も分析していますが、数年前までの多くの公立学校ではタイムカードすらなく、出勤簿にハンコだけの世界でしたから、過重労働であったということの証明が非常に難しく、10年ぐらい裁判で争っている事案も多いのです。
ですから、過重労働がなくなるのが、もちろんいちばんいいのですが、万が一のときにあなたの家族や愛する人をさらに悲しませないためにも、記録は正確につけたほうがよいです。
さて、児童生徒の間でトラブルや問題が起きると、大抵の先生は当事者の子どもに「正直に話してごらん」と言います。学校の働き方改革を進めるうえで、うそが横行する現実は一日でも早く変えて、正直に話せる職場をつくること、関係者が実態を確認して、しかるべき対策を講じていくことが大事だと思います。
(注記のない写真:Pangaea / PIXTA)
執筆:教育研究家 妹尾昌俊
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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