権力維持の道具となった「民主主義」という言葉 アメリカも中国も勝手に定義し叫んでいる

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バイデン大統領は最後に、中国の顔認証システムなどを意識した監視技術の輸出管理を強化するための「輸出管理・人権イニシアティブ」の発足などを打ち出したが、このイニシアティブへの参加はアメリカを含めわずか4カ国にとどまり、アメリカの求心力や説得力が弱まっていることを示す結果に終わってしまった。

アメリカ国内では、トランプ大統領時代の1月に起きた議会襲撃事件の真相がいまだに解決されないままだ。さらに共和党知事が率いるテキサス州など共和党が議会多数を占める多くの州では、民主党支持層が投票しにくくなるよう選挙法改正が相次いでいる。議会や選挙という民主主義システムの根幹をなす制度が、民主党と共和党の対立によって徹底的に破壊されつつある。そんな国を民主主義のリーダーだとみなすことはできない。

定義も行動も勝手なもの

アメリカと中国が同じタイミングで「民主主義」を政治的に標榜しているのは誠に奇妙な状況だ。

まるで「民主主義」という言葉が神棚に祭られている神様のように、あがめたてられている。しかし、それが何を意味しているかは不明であり、それぞれが勝手に定義している。しかも実際にやっていることは民主主義とはかけ離れているのだがお構いなしだ。

そういう意味では「民主主義」という言葉はまことに便利なものだ。バイデン大統領、習近平主席、ともに経済や安全保障政策など内政や外交で困難に直面し、国民の支持をつなぐことに汲々としている。国際社会での陣取り合戦も熾烈を極めている。この状況を少しでも有利に展開するために「民主主義」という便利な言葉を持ち出したのだろう。

民主主義という言葉を都合よく振りかざしながらアメリカと中国の二大国が理念なき理念の争いを繰り広げている状況の先にはどんな国際秩序が待ち構えているのか、不安が募る。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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