「それがイギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士らが著した子ども向け宇宙冒険小説『宇宙への秘密の鍵』という本でした。人類が地球以外に住める星を探すというストーリーで、それが火星だったのです。しかも本には実際に火星探査機が撮った写真も掲載されており、そこには火星の赤い広大な砂漠に青い夕日が沈んでいく風景が映っていた。その風景に心を奪われ、『絶対にいつか火星に行って、青い夕日を自分の目で見たい』という夢を抱くようになったのです」
そこから村木さんは研究する人生を自分でデザインしていく。だが、まだ21歳。世間的な見方で言えば、大学院で博士号を取って、それから研究機関で働いて成果を出しても遅くはないと思うのだが、村木さんはなぜ独自の道を選んだのだろうか。
「今日、僕が生きていることは奇跡。だから、今やる」
「今日、僕自身が生きていること自体、奇跡的なことだと考えています。例えば、僕は飛行機が好きなのですが、飛行機に乗ることはとても安全なことで毎日乗ったとしても、飛行機事故で死ぬ確率は、およそ400年に1度しかありません。その一方で、階段から転げ落ちて死ぬ確率は圧倒的に高い。つまり、僕たちの日常は危険にあふれているのです。その意味で、僕には“待つ”という選択肢はなかった。今日やりたいことは今日すべてやりたい。研究に関しても今はインターネットがあるので、最新の情報を入手しながら、いくらでも独学で勉強することができます。SDGsの目標到達期限は2030年。僕がもし、博士課程まで行ったら2028年です。そこまで待っていたら何もできません。やりたいことがあれば、今すぐやるべきだ。そう考えたのです」
現在、CRRAに所属する研究員は、本人を含めて16名。その構成も19歳の若者から68歳のベテランまでと幅広く、各人さまざまなバックグラウンドを有しているという。CRRAは組織としてもユニーク。社内では敬語が禁止で、給料は自己申告制となっている。収入源はCO2を空気中から直接回収する機器「ひやっしー」などの製品の販売、企業アドバイザーとしての収益のほか、共同研究、村木さん自身の講演などの活動、一般からの寄付金などで賄っている。
「二酸化炭素は悪いやつだというイメージがありますが、僕は二酸化炭素からこの世のすべてのものがつくれるのではないか、という研究をしています。本当は、二酸化炭素は可能性の塊であり、とてもいいやつなのです。僕は二酸化炭素が大好きすぎて、二酸化炭素に恋した東大生だと言われることすらあるのですが、それでも二酸化炭素の可能性を追求したいのです」
実際、主力製品もCO2にまつわるものが中心だ。「ひやっしー」とは誰もがボタン1つ押すだけで簡単に空気中からCO2を集めることができる機器で世界最小レベル(「CRRA調べ」)のものをつくり出した。空気中からCO2を集めることができれば、温暖化防止に役立つことは言うまでもなく、閉め切った部屋にCO2が充満し、集中力が低下する、といったような事態も防ぐことができる。
(写真:村木氏提供)
ほかにも「そらりん計画」では、CO2など空気中にある物質からガソリンの代わりとなるエネルギー源を生み出すことで、すべての石油製品が「空気製品」に置き換わることを目指しているという。こうした事業を展開することで、CRRAは国や大学からいっさい財政援助を受けず、金融機関からの借入金もなく、自己収益だけで運営されている正真正銘の独立研究機関として活動を続けているのだ。

















