引退、2階建て新幹線「E4系」が鉄道史に遺した意義 大量輸送時代の到来を見据え、定員は最大1634人

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E4系は2013年から廃車がはじまり、E5系やE7系が後継車両となっている。E5系は東北新幹線の「はやぶさ」で使用されているほか、E7系は北陸新幹線の「はくたか」や「あさま」などで使用されている。

E4系の最高速度は時速240kmだが、E5系は時速320kmで走行できる。足の速さが求められる東北新幹線では、E4系が足手まといになってしまう。ということで、E5系を大量に導入し、東北新幹線で使用している車両(E2系)を上越新幹線に転用させてE4系を順次淘汰していった。だが、E5系の導入は途中で止まり、E4系の淘汰が先送りされている。

続いて2019年からE7系が上越新幹線にも進出し、E7系の新車を上越新幹線に投入することで、2021年にはE4系の淘汰が完了するとされた。これが二度目の引退予定となるのだが、2019年の台風19号で千曲川が氾濫、長野新幹線車両センターに居たE7系が浸水して廃車となってしまった。これにより、車両が足りなくなったため、E4系の引退が再度延期されている。ただ、再度の延期と言っても、2021年3月の予定が半年延びただけだ。

大量輸送の宿題

さて、E4系の引退に伴って「輸送力」が新たな問題となる。代替のなるE7系などでは1編成あたりの定員はE4系の半分程度になってしまうのだが、これで輸送が間に合うのだろうか。これについては、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が東洋経済オンライン2019年4月25日付記事(「2階建て」新幹線E4系、引退後の輸送力は十分か)という記事で解説している。詳細は当該の記事を見ていただくとして、その後はどうなったのだろうか?

E4系を使用した上越新幹線16両編成の列車のうち、上りの始発列車(一番列車)から東京駅に9時までに到着する平日の列車の数を数えてみよう。これらの列車が通勤で利用されるからだ。2階建ての車両がE4系だけとなって以降、2013年3月のダイヤ改正から2018年3月のダイヤ改正までは16両編成の列車が6本設定されていた。

2019年3月のダイヤ改正では1本削減されて5本となり、2020年3月のダイヤ改正では4本に削減されている。だが、削減された1本に代わる形で別の列車が設定(増発)され、輸送力に差が出ないように配慮された。

2021年3月のダイヤ改正では16両編成の列車が1本となり、2021年10月からはE4系の引退でゼロとなる。

結局のところ、輸送力がカバーされたのは1本だけで、他は輸送力の削減で対処されている。JR東日本では駅の乗車人員を毎年公表しているが、感染症の影響もあって2020年度は大きく数字を落としている。上越新幹線沿線の熊谷・本庄早稲田・高崎では前年比で4割程度も減っていて、E4系が引退しても輸送力の補填をしなくて済んでしまっている。

仮に感染症の問題がなかったとすると、輸送力の補填はどうなっていたのだろうか。実のところ、輸送力が減った分は列車の本数を増やせば解決する。冒頭の内容と矛盾するが、東海道新幹線で「のぞみ12本ダイヤ」と呼ばれる輸送力増強が実現したように、JR東日本でも列車本数の増強が可能な体制ができている。E4系が登場した後、ATC(自動列車制御装置)と呼ばれる保安装置の更新があり、DS-ATCと呼ばれる新しいシステムでは従来よりも列車の間隔を詰めることができる。

輸送力の制約が緩和された一方、新幹線の高速化が進み、E4系が生まれた当時とは諸条件が変化した。これが、E4系の後継車両が「平屋」となったことにもつながっている。

E4系の引退により、JR東日本の現役の新幹線車両は最高速度が時速275km以上となる。これからの利便性向上が期待される一方で、2階建て車両独特の車窓の眺めや、車内に螺旋階段を備えたユニークな構造といった「お楽しみ」が消えるのは少し寂しい。

柴田 東吾 鉄道趣味ライター

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しばた とうご / Tougo Shibata

1974年東京都生まれ。大学の電気工学科を卒業後、信号機器メーカー、鉄道会社勤務等を経て、現在フリー。JR・私鉄路線は一通り踏破したが、2019年に沖縄モノレール「ゆいレール」が延伸して返上、現在は車両研究が主力で、技術・形態・運用・保守・転配・履歴等の研究を行う。『Rail Magazine』(ネコ・パブリッシング)や『鉄道ジャーナル』など、寄稿多数。

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