「老いたり病気になったりしないような優しい社会で、個人は本当に幸福だといえるのか?」。福祉・医療分野の科学技術が進んだ先で、個人の幸せとは何かを描いた作品が、この『ハーモニー』です。読書感想文を書くときは、この作品のそんなテーマに対して、どういう解答を出したのかを聞いてみるといいと思います。
SFというのは、科学の発展を喜ぶだけのものではありません。科学が発展した先に起こる問題を見せ、今を生きる僕たちに「考える」ことを求めてきます。これは未来の問題としてではなく、今を生きる僕たち一人ひとりが考えるべき問題だと、教えてくれるのです。
この『ハーモニー』も、切り取ってしまえば「未来の社会での」個人の幸福の話ですが、よく読んでみれば「今の社会を生きる」僕たちも考えなければならない問題だと気づかされます。
ネタバレになってしまうのであまり深くは言えないのですが、この作品では最終的に、「だったら個人であることをやめて、個人の意識を捨ててしまったほうが人間は幸せになる」という解答を提示しています。人々の命が管理された社会なら、いっそのこと体だけでなく意識すらも放棄してしまったほうが、人間は幸せになれるのではないか、と。
この幸福のあり方は、見る人にとっては受け入れがたいもので、見る人によっては本当に幸福なものです。幸福の捉え方は、人によって、価値観によって揺らいでしまいます。そして揺らぐからこそ、考える価値があります。考えて、結論が出ないとしても、きっと明日を生きるのに役立つはずです。この『ハーモニー』は、そんな難しいけれど考えるべき問いを提示してくれている作品なのです。
さて、この作品をお薦めする理由というのがもう1つあります。この作品はアニメ映画化もされているので、もし小説で挫折しても、アニメ映画から見てみることで読みやすくしてから読んでもらってもいいのです。
それだったら子どもたちはアニメ映画しか見ないんじゃ、と思うかもしれませんが、実はこの作品、小説版のラストとアニメ映画版のラストで少し違う部分があるのです。映画を見て、小説も読んで、比べてみることでより作品が楽しめるので、きっとどちらも見てくれるはずだと思います。
いかがでしょうか? 読書の秋とは申しますが、個人的には読書は夏にこそやっておくべきだと思います。コロナ禍で家にいることも多い子どもたちに、ぜひこれらの本を紹介してあげてみてください。
(注記のない写真はiStock)
執筆:西岡壱誠
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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