平和不動産、切っても切れない東証との「蜜月」 株主総会で露呈したガバナンス上の大問題

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創立から70年以上が経った現在、東証は別の文脈でも顔を出す。平和不は東証を抱えるJPX株を320万株、83億円保有しているが、6月23日に提出した有価証券報告書では、JPX株の保有目的について「(日本橋兜町・茅場町において)中心的な存在であるJPXと良好な関係を構築すること」を挙げている。

平和不は地盤の日本橋兜町・茅場町界隈において3件の再開発を具体化させている。背景にあるのは「証券の街」の地盤沈下だ。

1999年に東証の立会場が廃止され、取引もネットに移行して以降は営業員の往来が減り、証券会社の移転も相次いだ。日本証券業協会の会員270社(外国法人含む)のうち、7月時点で日本橋兜町・茅場町に本店を構えるのは14社。10月には東証ビルそばに本店(本社)を構えていた藍澤証券が汐留に移転する。

危機感を抱く平和不は、証券業界だけでなく幅広い人を呼び込む起爆剤として再開発を急ぐ。証券の街を象徴する存在の東証は「再開発における重要なパートナー」(平和不)であるという。

ガバナンスの風当たりは強く

東証出身者の社長就任について、平和不は「指名委員会の審議・答申を踏まえて決定しており、『天下り』には当たらない」としている。東証側もOBの去就に関知しないという立場を貫く。だが、切っても切れない関係への風当たりは強まり、平和不もいよいよ譲歩を余儀なくされている。

全株の売却を求めるリムの提案こそ退けたものの、平和不は2022年3月期より政策保有株の売却に着手する。3月末時点での政策保有株181億円のうち、JPX株は83億円と半分近い。「(政策保有株の簿価が)純資産の1割を早い時期に切りたい」(土本社長)とし、その達成には63億円以上の株式を手放す必要があり、売却銘柄はJPX株が中心となる見込みだ。

これまで継続してきた買収防衛策についても、6月の総会をもって廃止した。もし経営権が奪取され、取引所ビルが売却されれば、平和不の指す「企業価値の源泉」が失われることになるが、それでも統治改革を優先した。

ガバナンス重視の風潮に押され、東証との関係見直しに舵を切った平和不。折しも、2022年4月に移行するプライム市場では、東証自身が高いガバナンス水準を要求している。東証との袂を分かつ圧力が増す中、東証から送り込まれる社長の椅子の行方は平和不の悩みの種としてのしかかる。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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