JR西の豪華列車「瑞風」、沿線に与えた波及効果 立ち寄り観光地も全国にPRできるメリット大

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瑞風運行開始前の2013年度、岩美町を訪れる観光入込客は年間21万5000人だった。これを2018年度までに30万人に押し上げる計画を立てていたが、実際の2018年度の観光入込客は44万3000人。目標を大幅に上回ることができた。

これが瑞風効果だとしたらすごいことだが、「2015年に道の駅が開業したことによる効果が大きい」(岩美町商工観光課)。とはいえ、「瑞風がイメージアップに少なからず貢献していることは間違いない」。大学のフィールドワークの受け入れ件数やスポーツなどの合宿新規誘致件数も大幅に増えた。県外からの移住者も目標の200人を大きく上回る449人となった。町のホームページには瑞風の東浜駅の停車時間やおすすめ撮影スポットが掲載され、鉄道ファンに向けての便宜を図っている。

地域の絆を強めた「瑞風」

東浜駅での立ち寄り観光では、地元の有志グループ「東浜瑞風会」による「東浜音頭」の披露が行われる。メンバーは女性23人、男性4人の計27人。平均年齢は60代。「こんな静かな町に瑞風が止まると聞いて大変驚きました。地元で何かできることはないかとみんなで考えて、東浜音頭を踊るという案が出てきました」と、会長を務める浜口丈夫さんが語る。

東浜駅で地元の踊りを披露する「東浜瑞風会」のメンバーたち。後ろの建物はレストラン「アルマーレ」(記者撮影)

東浜音頭は小学校の運動会やお盆の時期に地元で踊られてきた。しかし、少子高齢化によって小学校が統合されて次第に踊る機会が減り、25年ほど前に途絶えてしまっていた。それが、瑞風の停車によって復活した。「地域の絆が深まったと感じます」(浜口さん)。

小学校の数が減り、運動会で踊るということはないが、瑞風以外のイベントにも呼ばれ、東浜音頭を踊る機会が増えてきた。そんなさなかにコロナ禍に見舞われた。瑞風が運休し、踊りを披露する機会がなくなった。

感染拡大防止のため、メンバー同士で集まることもままならない。練習することも控えざるをえなかった。「瑞風が来なくなって、町は以前の静かで、寂しくて、活気がない姿に戻ってしまいました」(浜口さん)。それだけに、瑞風の運行再開を首を長くして待ち望んでいた。

瑞風のある日常が帰ってきた。「町もにぎやかになりつつあります」。浜口さんは、「乗客がみなさんの思い出に残るようなおもてなしをしたい」と熱く語る。

瑞風の運行によって乗客が満足するのはもちろんのことだが、同時に地域経済が活性化し、地域の絆を強くなる。工夫次第で鉄道の果たす役割は大きくなるのだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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