暴力団が高級外車より「国産車」選ぶ意外な理由 自動車マニアも驚き!ワンボックスカーの底力

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鈴木:ヤクザに仕事を頼みたい人は、インターネットで検索しても情報がありません。だから何で判断するかというと、口コミなんです。そうじゃなければ、可視化された実力、事務所が立派か、すごい車に乗っているかどうか、ぱりっとした格好をしているかどうか、いい時計をしてるかどうかというところをやっぱり見る。

だから、よくヤクザが言うのは、30万円のセイコーの時計をするくらいなら、3万円のロレックスのコピーのほうがいいと。これこそヤクザ的発想です。

溝口:そうですね。高そうに見えるというのが大事なんだと。

鈴木:昔はよく、名簿を見て、親分と若頭、本部長らの住所、電話番号をチェックしました。全部同じなら、事務所がひとつしかないんだな、ここは規模が小さいんだなと判断する。

だから、たとえば宅見勝(五代目山口組若頭)時代の宅見組が大阪ミナミのいいところにどーんと事務所を建てたのは、やっぱり、ヤクザに仕事を頼みたい人へのアピールでしょう。繁華街の、見るからに地価が高いところに事務所があるというのがいちばんの宣伝になる。

外車よりも「ワンボックスカー」を選ぶ理由

溝口:しかし、その顕示的消費が最近は薄れてきている。昔はヤクザの車といえばベンツだったのが、最近はセダン型じゃないワンボックスが増えています。

鈴木:トップの親分たちが居住性を優先した国産のワンボックスに乗り出し、トヨタなどは本当に迷惑していると聞きます。セルシオが出たあたりから、メルセデスをはじめとする外国車信仰はずいぶん薄くなりました。高価な車はいくらもありますが、もう安っぽい誇示で名前を売る必要がない。

それにヤクザっぽい車は狙われやすいんです。防弾車にする際も、ワンボックスのほうが鉄板を入れやすい。重量的な問題があり、屋根が潰れてしまうので、天井には防御用の鉄板を仕込めないのですが、セダンだと上に乗られて撃たれる可能性もあります。

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溝口:ある程度馬力がないと防弾仕様は無理なんですよね。重量に耐えられないから。そういう実用面も確かにある。一方で伝統的なヤクザルックにも実用面がある。

暴力団は暴力のプロだからといって、しょっちゅう暴力を振るっているわけではありません。むしろ暴力のプロだからこそ、暴力の費用を熟知し、極力その発動を控えようとします。そのため彼らは、暴力を振るうかもしれないという雰囲気作りを行う。

ヤクザルックというのはそのためにあり、相手のほうが自分を恐れて避けるように仕向けることで、衝突と暴力の費用を節約しているとも言えます。入れ墨も同様で、見た者に恐怖を与える威嚇力や、仲間内で幅が利く、大きな顔ができる、といった意味合いがある。

溝口 敦 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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みぞぐち あつし / Atsushi Mizoguchi

1942年東京都に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒。出版社勤務など経てフリーに。2003年『食肉の帝王』(講談社+α文庫)で講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『詐欺の帝王』(文春新書)、『暴力団』(新潮新書)など多数。暴力団、半グレなど、反社会的勢力取材の第一人者である。

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鈴木 智彦 ライター

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すずき ともひこ / Tomohiko Suzuki

1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。週刊誌、実話誌などに広く暴力団関連記事を寄稿する。

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