女性には免罪符がなく、手抜きを許さない時代--『くらべない幸せ』を書いた香山リカ氏(精神科医、立教大学現代心理学部教授)に聞く
いまや婚活という名の下に、結婚までが就職活動や学校受験と同じように、目標設定して努力すればすぐに実現可能という、一つのプロセスになってしまっている。それは結婚というものが持つ本質とはずれた行き方だ。
--マンションやブランド買いも自分の証とか。
マンションなど不動産、あるいは資格とか、時代が変わっても変わらない価値や証を求める。そういうものが何かないと、よすがにするものがないということだ。
ブランド品についていえば、ブランドは長く生き残り、何年にもわたってある一定のステータスを保ってきている。自分の価値が激しく変動する中で、変動しない価値に寄りかかりたい、そういうものが欲しい。自分自身は時代によってすごくすばらしいと言われたり負けだと言われたり、それだけ自分の価値は移ろってしまっているわけだから。
--診察室ではどういう悩みの人が多いですか。
病気の部分は治したほうがいいが、それ以外の生き方とか人間性ではそのままで十分合格点、あるいは個性にすぎない人が少なくない。
不安や悩みが一切ないことを求めるのではなくて、不安や悩み、また憂鬱や落ち込み、そういうものもあって生きていることであり、毎日が刺激的なドラマのような生活をしないと生きている価値がないと思うのは大間違いだ。当たり前の生活の中にこそ、自分らしさが実は隠れている。毎日が穏やかに過ぎていることのほうが幸せと思うことが大事だ。
自分の証を持つのはいいが、これでもないあれでもない、と右往左往すれば、それは逆効果となろう。
(聞き手:塚田紀史 =週刊東洋経済2010年4月3日号)
かやま・りか
1960年札幌市生まれ。東京医科大学卒。学生時代より雑誌等に寄稿。臨床経験を生かして、新聞、雑誌で社会批評、文化批評、書評なども手掛け、現代人の“心の病”について洞察を続ける。専門は精神病理学だが、テレビゲームなどのサブカルチャーにも関心を持つ。著書は100冊を超える。
『くらべない幸せ』 大和書房 980円
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