「みんなのコード」利根川氏らが提言「プログラミング授業」意外な落とし穴と対処法 端末はちゃんと動く?ICT支援員はどう活用?
※1 Society 5.0:ソサエティ5.0。内閣府が提唱する未来社会像。AIやIoT(モノのインターネット)、ロボット、ビッグデータなどを活用する豊かな社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くもので、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する
とはいえ、前述のようにICT支援員はいつもいるわけではない。疑問が生じたとき、トラブルが発生したときにすぐ相談するのは難しいだろう。そうした状況を踏まえ、利根川氏は事前すり合わせの重要性を主張する。
「PCを必ず使うのがプログラミングの授業なのですから、少なくとも初期は、ICT支援員が学校へ来る日に合わせて授業を行ったほうがいいでしょう。事前に調整が可能なのであればそうするべきです。PCのトラブルへの対処を支援員にお願いすることで、先生は授業の進行により集中することができます」
援助要請と能動的援助の力を引き出す好機
想定外のPCトラブルなど、インフラとしてのICT環境を維持するためのコツがのみ込めてくれば、より有効に教育で活用する段階へ進むことができる。そうなると気になるのは、「うまくできない子」をいかに引き上げるか。経験上、差が出るのは避けられないと加藤准教授は明かす。
「算数や国語でも差はありますが、感覚的にプログラミング教育の授業は、体育や音楽に近いくらいの差が出ます。おそらく、授業数を積んで教え方を研究してもなかなか縮まるものではありませんので、『補い方』をどうするかがポイントです。そこの認識が不足していると、できる子はどんどん進めてしまう一方で、できない子がずっととどまるといったように、驚くほど差が広がってしまいます」
その差を埋めるにはどうしたらいいのか。利根川氏は、ICT支援員を活用する余地があるという。
「せっかくプログラミングの授業にICT支援員が参加してくれるのであれば、PCトラブルの対処に加えて、苦戦している児童のサポートをお願いするとよいでしょう。先生もICT機器のリテラシーを上げる必要がありますが、ICT支援員に可能な範囲でつまずいている児童の支援に入ってもらうのが理想だと考えています。同じ授業をつくるチームの仲間ですから」
リソースがあるのであれば、複数名体制でフォローするのは確かに合理的だ。ただ、日程調整がつかないときや、自治体によってはICT支援員の数が不足することもあるだろう。そんなときは、やはり児童やクラスの雰囲気を見ながら対応する教員「本来の力」が生きてきそうだ。加藤准教授は次のように話す。

東京農工大学大学院工学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て2004年より東京学芸大学准教授。博士(工学)。ペン入力を採用したインターフェースのデザインやシステムの開発および教育の情報化に関する研究、教員養成へのICT活用、教育の情報化に対応できる教員の養成に取り組んでいる。著書に東京学芸大学プログラミング教育研究会が編集した『小学校におけるプログラミング教育の理論と実践』(学文社、共著)がある
(撮影:今井康一)
「難易度別の課題を出して子どもに選ばせるというやり方もあります。一方で、助け合う雰囲気ができているクラスであれば、できる子とできない子を組ませる方法もいいでしょう。そうすることで、さらに雰囲気がよくなることもあります。例えば、ほかの教科は不得意なものが多いのに、プログラミングだけすごく力を発揮する子がいるんですよ。それをクラスの皆が見ると友だち関係にいい変化が生じることもありますし、それによってその子に自信や積極性が芽生え、ほかの教科も伸びるということもあります」