田舎暮らしを夢見る人が知らない獣害のヤバさ 「のどかで治安のいい田舎」が消滅しつつある

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住宅を柵で囲むのは、花壇や庭木が荒らされるからだという。シカは農作物でなくても植物性なら何でも食う。イノシシも油粕や鶏糞など有機肥料を撒いたところには、臭いに惹きつけられるのか、姿を現して掘り返す。そして植えたばかりの苗を全滅させる。またサルのように住宅の中に忍び込むケースもあるから、もはや空き巣・強盗対策と同じだ。

「鍵をかけなくても平気」と治安のよさを自慢していた田舎でも、サルの侵入を防ぐためには窓をしっかり締めて鍵をかける必要が出てきた。

近年は集落全体を防護柵で囲む対策もとられている。だが、道路や河川は封鎖できない。そこで、封鎖せずに道や河川から野生動物が入らないようにする工夫が必要となる。もっとも動物側も人の行動を観察して弱点を探している。そして侵入する可能性がある。

一方で、全然柵のない田畑も見かける。「ここにはイノシシやシカが出没しないのか」と期待したいところだが、ときとして農家の諦めの表れということもある。

よく見ると、農地は荒れてあまり世話がされていない。ほんの一部に少量の野菜がつくられているだけ。広い面積を耕しても鳥獣から守りきれないからだ。防護柵の設置や罠などの対策は体力とコストがかかる。高齢化の進んだ住人は、その余裕を失っている。

生きがいまで奪われる

こうした状況を見ていると、中山間地において獣害がもたらす最大の影響は、物理的被害以上に精神的なダメージではないかと思う。

農業は多くの場合、作付けから収穫まで数カ月〜数年の期間がかかる。その間、せっせと世話を見ることで作物にも愛情が湧く。最後の収穫が最大の喜びであり、生きがいでもある。そして動物が狙うのも最後の収穫物だ。ちゃんと実るまで待って狙うのだ。待望の作物を食われた作り手のショックは大きく、次の作付け意欲まで奪われてしまう。

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