海外販売までも消費税、スマホアプリの受難 グーグルプレイを通じた海外販売が課税対象に

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「このままなら日本を出ていかざるをえない」。4月下旬、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、グリー、エイチームなどスマートフォンアプリの開発会社約10社が集まった会合で、憤慨した参加企業からはこんな声が飛び出した。

アプリ会社は有料アプリやアプリ内でのアイテム課金で収入を得ている。米グーグルのアンドロイド端末では「グーグルプレイ」が主力、米アップルのiOS端末では「アップストア」のみが販売ルートとなっている。

各社が急きょ集まって情報交換した問題とは、グーグルプレイを通じた販売についての消費税課税問題。国税当局が、本来は消費税が不要であるはずの海外向けの売り上げについても、過去にさかのぼって消費税を課し始めたのだ。

当局がまず目を付けたのが、ガンホー。各アプリストアの売り上げランキングで首位をひた走る『パズル&ドラゴンズ』の開発会社だ。要請を受けたガンホーは昨冬までに、支払いに同意した。

ガンホーという前例を手に入れた国税当局は、海外売上高の多い大手アプリ会社に対し、追徴課税の歩を進めている。『ダークサマナー』などのゲームが海外で人気のエイチームも、今年1月に調査が入り、過去3年分の海外売上高に対して1億円弱の消費税の支払いを求められた。同社はこれを不服とし、現時点では支払いに応じていない。

氏名と住所がない

なぜグーグルプレイに限って課税されるのか。国税当局の理屈はこうだ。

アップストアの場合、アプリ会社は地域別に設置された直営代理店(日本の場合はアイチューンズKK)を通してアップルにアプリを納めるという契約形態。そのため、国内向けと海外向けの取引は明確に区別できる。アイチューンズKKとの取引のみが課税対象となり、海外販売については、問題なく消費税法の輸出免税が適用される。

一方、グーグルプレイではアプリ会社がユーザーに直接販売する契約形態。アプリ会社にはグーグルから国別売上高の情報が提供されている。

ところが、現状の法律では海外ユーザーとの取引に輸出免税が適用されず、全取引が課税対象となってしまう。なぜなら、輸出取引の証明には「販売先の氏名と住所が必要」と消費税法施行規則第5条1項で定められており、国別売上高の情報だけでは足りないのだ。課税を回避するため、あるアプリ会社はグーグルに氏名と住所の情報提供を求めたが、個人情報保護を理由に断られたという。

この課税問題は重大だ。消費税は8%から10%へと、もう一段の増税を控えていることもあり、国内のアプリ会社にとって大きな負担になりかねない。

アマゾン、楽天コボなどは販売拠点を海外に置くことで日本の消費税を回避している。国税当局が現状の硬直的な運用を見直さなければ、アプリ企業も販売拠点を海外に移す動きが始まる。そうなると、国内への販売についても課税できなくなる。

今こそ、デジタルコンテンツへの課税について、抜本的な見直しが必要だろう。

週刊東洋経済2014年5月17日号〈12日発売〉「核心リポート02」)

長谷川 愛 東洋経済 記者
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