一部科学者が集団免疫は5割で十分と考える訳 集団免疫をめぐって各国で議論が噴出している
集団免疫は伝染病のいわゆる再生産数(1人の感染者が何人にウイルスを広げるかを示す数字)から算出される。当初は、感染しやすさは誰でも同じで、同じコミュニティに暮らすいかなる人ともランダムに接触しているという前提で計算は行われた。
「そんなことは実際の生活では起こらない」と言うのは、イェール大学グローバルヘルス研究所のサード・オメル所長だ。「集団免疫は集団ごとに、そして(同じ集団内の)もっと細分化された集団ごとに異なる可能性がある」とオメルは指摘する。場合によっては郵便番号ごとに違う可能性すらある。
年配の住民はほかの人々との接触はほとんどないかもしれないが、ひとたびウイルスに遭遇するとすぐにやられてしまう。一方でティーンエージャーの感染者は、自身は体調を崩すこともなく、何十人もの接触者にウイルスをうつすかもしれない。人と人との距離が離れている郊外や田園地帯ではウイルスの伝播はゆっくりだが、人の多い都市部や大家族の間では、あっという間に広がってしまう。
コミュニティ住民の43%が免疫獲得すれば
人の密度や人口構成といった現実世界における違いを計算に入れたことが、集団免疫獲得に必要な免疫保有者の割合が下がった原因だ。中には10〜20%いればいいのではないかと言う専門家もいるが、さすがに少数派だ。
第1波でウイルスのいちばんの標的になったのは人付き合いが好きな人々や、感染を防ぐ力の弱い人々だったという前提なら、ここで得られた免疫はワクチン接種よりも効果的ということになると、ストックホルム大学の数学者、トム・ブリトンは言う。
ブリトンのモデルでは、集団免疫の獲得に必要な免疫保有者の割合は43%。つまり、コミュニティの住民の43%が新型コロナウイルスに感染し、回復すれば、もうそこにウイルスはいられなくなるのだ。
とは言え、それは裏返せば少なからぬ住民が発症したり、命を落とすということも意味する。集団免疫を得る代償としてはあまりに大きい。それにハネージのような専門家は、例え集団免疫が獲得できる条件が満たされたとしても安心はできないと警鐘を鳴らす。
全体的に見て感染拡大が食い止められている状態であっても、ウイルスはまだ、そこかしこに残っているかもしれない。回復した後、どのくらい免疫を維持できるかもわかっていない。